梅干し






梅干し




梅漬け


梅干しうめぼし)とは、ウメの果実を塩漬けした後に日干しにしたものである。日本ではおにぎりや弁当に使われる食品であり、健康食品としても知られる。なお、塩漬けのみで日干しを行っていないものは梅漬けと呼ばれる。


伝統的な梅干しは非常に酸味が強く、好き嫌いが分かれる食品である。梅干しのこの酸味はレモンなどの柑橘類に多く含まれるクエン酸、調味梅干の場合はそれに加えて漬け原材料の酸味料に由来する。




目次






  • 1 製法


  • 2 種の仁


  • 3 歴史


    • 3.1 古代


    • 3.2 平安時代


    • 3.3 戦国時代


    • 3.4 江戸時代


    • 3.5 近代




  • 4 保存性


  • 5 生産地


  • 6 効能


  • 7 栄養価


  • 8 食べ方


  • 9 文化


  • 10 脚注


  • 11 参考文献


  • 12 関連項目


  • 13 外部リンク





製法




伝統的製法による梅干しの土用干し


梅干しの製造には、6月頃に収穫する熟したウメを用いる(梅酒では熟していない青梅を用いる)。ウメを塩漬けにした後3日ほど日干しにする。これを「土用干し」という。この状態のものを「白干し」と呼び、これは保存性に優れており、塩分が20%前後となる。土用干しののち本漬けしたものが伝統的な梅干しである[1]。梅干しがシソで赤く着色されるようになったのは江戸時代になってからとされる[1]。また三年間熟成させ塩を馴染ませまろやかにした三年梅あるいは三年漬けも存在する。


近年市販されている梅干しは、減塩調味を施したものが多く、これらは商品のラベルに「調味梅干」と記載されている。法的には梅干と調味梅干は区別され、JAS法は、伝統的製法によって製造された梅干しを「梅干」、調味されたものを「調味梅干」と表示するよう義務付けている。調味梅干は、白干しの梅干を水につけて塩抜きした上で、味付けをしたものである。調味梅干の種類としては、シソ(赤じそ)の葉とともに漬けて赤く染め風味をつけた「しそ梅」、蜂蜜を加えて甘くした「はちみつ梅」、昆布とともに漬けて味をつけた「昆布梅」、鰹節を加えて調味した「鰹梅」、黒糖に黒酢を使って漬け込んだ「黒糖黒酢仕込み」などがある。調味梅干の漬け原材料は商品名に明示されたもの以外に、還元水飴、発酵調味料、たんぱく加水分解物、調味料(アミノ酸等)、野菜色素、ビタミンB1、酸味料、甘味料(ステビア、スクラロース)などが使用される。減塩梅干や調味梅干は、塩分が少なくなることで保存性が下がるため、賞味期間が短く設定されることが多い。


五訂日本食品標準成分表によれば、塩分は梅干が22.1%、調味梅干が7.6%となっている。調味梅干は戦後に製造が始まり、世代によって食べ慣れた梅干しが異なる[2]


地方によって梅ではなく、近隣種である杏を使用する場合がある(青森、岩手の八助梅など)。しそ梅を漬ける際一緒にした赤じそを乾燥させて粉末状にすると、副産物としてふりかけの一種である「ゆかり」ができる。



種の仁




輪切りにした梅干の種と中の仁


梅干しの種の仁(中身)を俗に「天神様」と言い、この部分を好んで食べる人もいる。この俗称は菅原道真の飛梅伝説に由来する。


しかし、ウメの実には元々青酸配糖体であるアミグダリンという成分が含まれており、これが胃腸などで酵素によって加水分解されると猛毒であるシアン化水素(青酸)を生成する。これは特に仁の部分に多く、多量に食べると青酸中毒に陥り、最悪の場合は死に至る可能性がある。このことから、「梅は食うとも核(さね)食うな、中に天神寝てござる」という格言も存在する。ただし、漬けることでアミグダリンはほぼ消失し、食べても人体にはほとんど影響がないとされている。



歴史



古代


梅は中国が原産である。本来梅干は梅酢を作った後の副産物であり、利用法としてはこれを黒焼きにして腹痛の治癒・虫下し・解熱・腸内の消毒の効用を目的に、食用よりもむしろ漢方薬として用いた。紀元前200年頃のものという馬王堆からも、梅干しが入っていたと考えられる壷が出土しており、これは日本に伝えられたものである。また、クエン酸を主成分とする梅酢は器具や人体の傷口の消毒の他、金属の鍍金やはんだ付け、青銅器・鉄器の酸化皮膜処理(酸化銅(II)および黒錆:酸化第一鉄による「黒留め」と呼ばれる酸化皮膜による防錆処理)のためにも用いられた。東大寺の大仏に金を鍍金する際にも使われたという。梅酢は青酸が登場する昭和中期まで大量に使われていた。



平安時代


平安時代には村上天皇が梅干しと昆布茶で病を治したという言い伝えが残っている。また、菅原道真が梅を詠んだ短歌はよく知られ、これは「釣りのときに持参する弁当に梅干しを入れて行くと、魚が釣れない」という言い伝えの起源となった。



戦国時代


戦国時代になると梅干しは保存食としてだけではなく、傷の消毒や戦場での食中毒、伝染病の予防になくてはならないものとなった(陣中食)。合戦中の休息に梅干しを見ることで唾液分泌を促進させ、息切れつまり脱水症状を防ぐ目的にも使われた。梅干しは戦略物資の一つとなり、武将たちは梅の植林を奨励した。これは現在でも梅の名所や梅干しの産地として残っている。上杉謙信は酒の肴に梅干しをよく取っていた[3]と言われる。



江戸時代


江戸時代になると、現在の梅干の作り方とほぼ同じ作り方が『本朝食鑑』(1697年)に現れる。「熟しかけの梅を取って洗い、塩数升をまぶして2、3日漬け、梅汁ができるのを待って日にさらす。日暮れになれば元の塩汁につけ、翌朝取り出しまた日に干す。数日このようにすれば梅は乾き汁気はなくなり、皺がよって赤みを帯びるので陶磁の壷の中に保存する。生紫蘇の葉で包んだものは赤くなり珍重される」とある。これより50年後の『黒白精味集』(1746年)にも梅干の作り方が見えるがこれも本朝食鑑とほぼ同じである。


江戸時代の銀山では、坑内に立ちこめる鉱塵(こうじん)による粉塵公害「けだえ」が問題であった。備中国笠岡の医師・宮太柱は数々の「けだえ」防止の装置を発明したが、鉄の枠に梅肉を挟み薄絹を張った防毒マスク「福面(ふくめん)」は、酸の効果で鉱塵を寄せつけず効果が絶大だったという。これがきっかけとなり後年、坑夫たちの家族によって梅紫蘇巻という食品が生み出された。


醤油が関東に広がるのは江戸中期以降であり、それまでは梅干しを日本酒で煮詰めた「煎り酒」が「垂れ味噌」と共に調味料として広く使われていた。また、正月、節分、大晦日などに縁起かつぎとして昆布や梅干しにお茶を注いだ「福茶」を飲む習慣が庶民に広がった。



近代


長期の保存がきくため、前線の兵士は梅干しを携行糧食として好んで携行した。故郷を偲ぶ味として兵士らに愛された。昭和期などは日の丸弁当は弁当の定番であった。日中戦争から大東亜戦争の時期には、興亜奉公日・大詔奉戴日に食べることを推奨していた[4]


現在では減塩調味を施した「調味梅干」が主流となっている。各家庭で梅干しが漬けられることは少なくなり、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで手軽に手に入れられるようになった。販売されているものは、食べやすいように鰹節や蜂蜜などで味付けされているものもある。



保存性


スーパーマーケットなどで市販されている梅干しには、消費者の嗜好の変化から調味梅干が多い。これは、賞味期間が製造後半年程度に設定されているものが多く、名称の欄に「調味梅干」と書かれていることで確認できる。


伝統的製法によって作られた梅干は、土蔵のような保管に適した環境では腐らず、100年前に作られたものでも食べられる。ただし、希に黒色に腐ることがあり、地方によっては、普段腐ることがない梅干しが腐るのは何らかの異変が起こる前兆であるという迷信が伝えられている所もある。現存している最古のものでは、奈良県の中家に伝わる梅干しで、1576年に漬け込まれたものが良好な状態で保存されている(補充ができないため試食はされていないという)。また、同家に同じく伝わる江戸時代の安永年間(1772年 - 1781年)に漬けられた梅干しを試食したところ、問題なく食べられたという。保存年数が経つと、梅干しから梅酢へペクチンがしみ出しゼリー状に固まることや、水分が飛び易くなっている環境の場合、塩分が析出して数ミリ大の結晶になることもある。



生産地


特に和歌山県(紀州)は梅干しの生産地としてよく知られる。和歌山県ではみなべ町や田辺市が主な生産地であり、これらの地で生産される南高梅と呼ばれる品種のウメを用いた梅干しは最高級品とされ、県の推薦優良土産品に指定されている。
また五條市や下市町を中心に奈良県も梅の栽培が盛んであり、吉野では八重桜も漬け込んだ商品も出ている。



効能


梅干には次のような効能があると言われている。




唾液の分泌を促す(梅干しを見るだけで唾液が出てくるのは条件反射の一種)。


クエン酸の酸味が唾液の分泌を促して消化吸収を良くするとされる。梅干を見たり想像しただけで唾液が分泌されるのは、梅干を実際に食べてみて酸味を感じた経験を有することに由来する。


疲労回復などの効果

クエン酸の効能のほか、血糖値の上昇を抑えたり、便秘の解消を助けたり、肝機能を高めることによって酔いを防止する効果もある[5]。療養時には米のおかゆと梅干しが供されることもある。これは脱水症状を防ぐ意味合いもある(経口補水液の項も参照)。

解熱

梅干を潰し、おでこに貼り付けることにより熱を下げるという作用で、民間に伝わる療法の一種である。


抗菌・防腐

抗菌の効能があるとされる。このことから、弁当やおむすびに梅干が入れられる。但し、1個丸ごと入れただけでは梅干の周囲にしか効果は期待できない。



栄養価






食べ方


基本的には種を除きまるごと食べて問題ない。日の丸弁当のように米飯のおかずとして添えられることもある。塩味が強すぎる場合塩抜きも行われる。梅干しの身の部分は「梅肉」と呼ばれ、揚げ物に挟み込んで揚げたり和え物にしたりと様々な料理に利用される。梅肉を調味料と混ぜることで梅ソースとなり肉・魚・野菜のソースとしても使える。かつては江戸時代にかけて梅干しを日本酒で煮詰めた煎り酒が調味料として広く使われていた。他、スナック菓子のフレーバーなどにも使われる。日本では食品において単純に「梅」と言った場合「梅干し」のことを指すこともある。


紫蘇も可食。梅干しでは赤く染まった繊維状の物が紫蘇になる。既製品では梅干しと紫蘇が一緒に梱包された商品もある。紫蘇を乾燥させれば「ゆかり」になる。


梅干しを漬けた後の液体部分が「梅酢」であり本来は梅酢の生産も重要な目的であったが2016年現代、梅酢の大半は産業廃棄物として捨てられているとみられる[8]。梅酢も衛生的に管理されていれば飲むことが出来る。ただし塩分濃度は20%に達し非常に高塩分である。酵母菌も発生しており健康的には問題ないものの精製しなければそのまま製品にするのは難しい[9]



文化





幕の内弁当の一例。ご飯の上に梅干が乗っている。




  • 俳句では夏の季語である。

  • 白飯の真ん中に梅干しをのせただけの弁当を、日の丸(日章旗)に見立てて「日の丸弁当」と呼ぶ。アルミニウムに酸化皮膜を施したアルマイトで造られた弁当箱では、同じ場所に梅干しを入れることを繰りかえした場合、酸によって蓋が溶けることがあったという体験をした人は多い。これは終戦直後の製造技術が劣っていたことや、アルミニウムの純度が低かったためと考えられている。


  • 旅行をする人の中には、旅行地での料理に飽きた時の口直しや気分不快の際の気分転換を目的として、梅干しを持参する人もいるといわれる。

  • 申年に作った梅干しは「縁起が良く、食べると健康長寿になる」という。これは平安時代に村上天皇が申年の梅干しで病気を治したことに由来する。一方、江戸時代の天明の飢饉は、申年に始まったが、紀州藩は梅干しの力で死者をほとんど出さなかったからだという説もある[10]


  • 妊婦は妊娠中に酸味[要出典]を欲するため梅干を食するといわれる。欧米[要検証]ではキュウリ[要出典]のピクルスを妊娠中に欲するといわれている。Phil McGraw博士によれば、すべての妊婦がピクルスやアイスクリームを欲するわけではないが、そういった食物を妊婦が求めることは事実としてある。ピクルスを欲する女性は塩分を求めており、またミネラル不足、特にナトリウム不足であるかもしれない。妊婦の血液の体積に20%までなる増加があるとき、すでに存在するミネラルが薄められるため、ミネラルの追加は特に重要である[11]

  • 中世の日本における民間療法としては、こめかみに紙片に貼った梅干片を貼ると頭痛や癇癪の予防や治療になるとされ、特にこれを貼った老婆を「梅干婆さん」と呼んだ。現代でも、時代劇等の劇中で老人、特に老婦人がこめかみにこの紙片を貼っている光景が見られる。

  • 日本語の料理の味加減や物事の具合を表す「塩梅(あんばい)」は、塩と梅酢のこと。本来の読みは文字通りの「えんばい」だったが、「程よく物事を処理する」意味の「按排(あんばい)」と混同が起き「塩梅」と書いて「あんばい」と呼ぶようになったと考えられる。



脚注


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  1. ^ ab管野 (1991, p. 19)


  2. ^ “農林水産消費安全技術センター 広報誌・大きな目小さな目(食のQ&A 梅干しについて)”. 農林水産消費安全技術センター (2001年9月). 2009年3月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月1日閲覧。 - 美味しくないとまで感じる味覚差の一例。農林水産消費安全技術センターによる梅干しの解説がなされている。


  3. ^ 小田 (2001, p. 145)


  4. ^ 梅干しをたどって(6) 戦場になくてはならぬ? 朝日新聞夕刊 2015年12月2日


  5. ^ 古川 & 五明 (2005, p. 415)


  6. ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」


  7. ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」


  8. ^ 梅酢って何?(梅酢とは) 一般社団法人 日本有機梅協会 - 2018年1月10日 閲覧


  9. ^ 梅酢の脱塩と梅塩の製造について 岩橋千愛、金山裕亮、東順一 2018年1月10日 閲覧


  10. ^ 『Business News2016.1 One Point』 TKC出版 2016年1月1日発行 2頁


  11. ^ McGraw, Phil; Yfat Reiss. “The Myths and Facts about Pregnancy” (英語). Dr. Phil.com. PETESKI PRODUCTIONS, INC. 2011年11月11日閲覧。Phil McGraw:臨床心理学博士、テレビ番組司会者。




参考文献



  • 小田晋 『歴史の心理学 日本神話から現代まで』 日本教文社、2001年5月。ISBN 978-4-531-06357-4。

  • 『雑学おもしろ事典 頭に栄養と休養を』 管野浩 編、日東書院、1991年5月。ISBN 978-4-528-00518-1。

  • 古川知子 『食材健康大事典 502品目1590種まいにちを楽しむ』 五明紀春 監修、時事通信出版局、2005年11月。ISBN 978-4-7887-0561-6。



関連項目











  • 梅肉エキス

  • 紅しょうが


  • カリカリ梅 - 調味梅漬けの一つ。特にカリカリとした堅い食感を残したもの。


  • 干し梅 - 梅干しを甘く味付けして完全に乾燥させた菓子。中国では話梅と呼ばれる。


  • うめぼしのうた - 明治時代から大正時代にかけて、尋常小学校の国語教科書に掲載されていた詩。


  • うめぼしの謎 - 三笠山出月による4コマ漫画。



外部リンク



  • 世界大百科事典 第2版『梅干し』 - コトバンク


  • ウメ - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)

  • 紀州梅効能研究会(梅の様々な効能、効用、健康効果を医学的に検証)









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