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木曽発電
木曽発電株式会社（木曾發電株式會社、きそはつでん）は、昭和初期に存在した日本の電力会社である。旧社名は伊那川電力株式会社（いながわでんりょく）。
大手電力会社大同電力の子会社として1928年設立。同じ大同電力系の信美電力株式会社（しんびでんりょく）を1932年に合併し、最終的に長野県南西部の木曽郡大桑村および南木曽町において計5か所の水力発電所を運営した。戦時下における電力の国家統制強化に伴い、1941年に発電設備を日本発送電に出資して解散した。木曽発電が運営した発電所は日本発送電を経て関西電力に引き継がれている。
目次
1 沿革
1.1 年表
2 設備
2.1 水力発電所
2.2 変電所
3 関連項目
4 参考文献
沿革
木曽発電は1928年11月、伊那川電力として発足した。大同電力が大手製紙会社であった樺太工業から、同社が大桑村で行っていた電力事業を継承する際、その受け皿として設立した電力会社である[1]。本社は名古屋市東区東片端町、資本金は320万円[2]。
大桑村における樺太工業の電力事業は、大桑村須原で1913年1月に操業を開始した木曽興業に始まる。同社は木曽川支流の伊那川（伊奈川）下流の橋場に工場を建設、伊那川の水力を製紙用動力として利用していた。同社は1918年に大桑村全域への電灯供給を開始。1924年には、木曽興業を合併した中央製紙によって上流側の田光に水力発電所が完成した。樺太工業はこの中央製紙を1926年に合併し、須原の工場を木曽工場として運営していたが、1928年7月に木曽工場を閉鎖[3][4]。この際、従来から余剰電力の売電先であった大同電力へ、橋場の水力設備・田光発電所および大桑村への電灯供給事業を譲渡した[5]。
1932年4月、伊那川電力は同系の信美電力を合併し、翌5月に社名を木曽発電に変更した。信美電力は北恵那電力（きたえなでんりょく）として1925年4月に発足[6]。元は岐阜県を流れる木曽川支流付知川の開発を目的としていたが、その計画を変更し、現南木曽町を流れる与川に大同電力が建設していた工事用水力発電所を元に新発電所を建設した[7]。この与川発電所と、橋場の水力設備を改造して新設した橋場水力発電所を加えて、木曽発電の発電所は計3か所となった。
1934年、信美電力から継承した計画を元として蘭川に妻籠発電所を建設。1938年には伊那川の上流側に相之沢発電所を追加した。これにより発電所は計5か所となった。
木曽発電は大桑村への電灯供給と大同電力への電力供給事業を手がけていたが、このうち大桑村への電灯供給事業は1938年に中部合同電気へと譲渡し、単純な電力卸売り会社となった。譲渡先の中部合同電気は、岐阜県の多治見から大桑村に至る、中央本線沿線の電力供給事業者7社（木曽発電のほか木曽電気、中津電気、矢作水力、東濃電化、妻木電気、東邦電力）の事業を統合すべく発足した電力会社である[8]。同社は1942年、中部配電に統合された[9]。
翌1939年、電力の国家統制を目的とする日本発送電が発足。電力の供給先であった大同電力の事業が日本発送電に継承されたため、電力の供給先は同社へ切り替わった。また同時に親会社も大同電力から日本発送電となった[10]。2年後の1941年、電力統制の強化に伴って木曽発電も日本発送電への設備出資命令を受けた。同年10月をもって木曽発電は日本発送電へ全電力設備を出資し、同時に解散した[11]。
年表
1928年11月19日 - 伊那川電力株式会社設立[12]。- 1928年12月1日 - 樺太工業より、田光発電所・橋場水力設備および大桑村における電灯供給事業を譲り受ける[12]。
1929年3月5日 - 橋場水力設備を改造した橋場発電所が送電開始[12]。
1932年4月30日 - 信美電力株式会社（1925年4月設立）を合併[12]、与川発電所を継承。- 1932年5月27日 - 木曽発電株式会社に社名変更[12]。
1934年12月6日 - 妻籠発電所送電開始[12]。
1938年3月12日 - 相ノ沢発電所送電開始[12]。- 1938年8月1日 - 中部合同電気へ大桑村での電灯供給事業を譲渡[12]。
1939年4月1日 - 親会社大同電力が全資産を日本発送電へ出資。これに伴い親会社および電力供給先が日本発送電となる[12]。
1941年10月1日 - 電力設備を日本発送電へ出資して解散[12]。
1942年8月10日 - 清算終了[12]。
設備
関西電力田光発電所（2007年）
関西電力与川発電所（2011年）
関西電力妻籠発電所（2011年）
関西電力賤母発電所（2011年）
水力発電所
木曽発電が運営していた水力発電所は以下の5つである。いずれも木曽川水系の河川にあり、伊那川に下流側から橋場発電所・田光発電所・相ノ沢発電所、与川に与川発電所、蘭川に妻籠発電所を置いていた。
- 橋場発電所（第一発電所）
- 所在地は大桑村須原。
木曽興業が開発した水力設備が起源。水路を引き水車を直結して製紙用動力を得たほか、工場電灯用の電力の発電に充てていた。樺太工業からこの水力設備を買収した伊那川電力により発電所に改造され、橋場発電所として1929年に運転を開始した。橋場発電所に設置された変圧器で田光・相之沢両発電所からの電力とあわせて昇圧し、大同電力に供給した[13]。- 出力は当初1,700キロワット、後に1,800キロワット[14]。
- 田光発電所（第二発電所）
- 所在地は大桑村長野。
- 木曽興業の後身中央製紙の手により1924年12月運転開始。1928年12月に伊那川電力が買収して自社発電所とした。出力は当初2,120キロワット、後に2,150キロワット[14]。
- 相ノ沢発電所（第三発電所）
- 所在地は大桑村長野。
- 木曽発電時代の1938年12月に運転開始。出力は6,100キロワット[14]。
- 与川発電所（第四発電所）
- 所在地は読書村（現・南木曽町読書）。
- 元は大同電力が工事用動力を得るために建設した発電所（1917年10月竣工）である。所期の目的を達した後は運転を休止していたが、信美電力がこれを譲り受け、改造した上で1927年1月19日より営業送電を開始した[15]。出力は当初240キロワット、1927年以降は1,760キロワット[14]。
- 妻籠発電所（第五発電所）
- 所在地は吾妻村（現・南木曽町吾妻）。
- 信美電力が水利権を得ていた地点である。木曽発電の手によって着工に至り、1934年12月6日より営業送電を開始した[16]。出力は2,800キロワット[14]。
5つの発電所は1941年に日本発送電に継承された後、戦後1951年から関西電力が運営している[14]。
変電所
木曽川沿いに建設された大同電力賤母発電所（現・関西電力賤母発電所、岐阜県中津川市山口）の構内に変電所を設置していた。与川・妻籠両発電所からの電力を受電して昇圧し、ここから大同電力に供給した[17]。
大同電力への電力供給を主目的とするため長距離送電線は建設せず、発電所・変電所間の短距離送電線のみ保有していた[17]。
関連項目
- 歴代社長
増田次郎 - 2代目取締役社長（1933年6月 - 1939年3月）[18]。大同電力社長、日本発送電初代総裁を歴任。
岸田幸雄 - 3代目取締役社長（1939年11月 - 1941年9月）[18]。
- 伊奈川ダム
参考文献
^ 木曽発電（編）『木曽発電株式会社沿革史』（以下「沿革史」）、菱源印刷工業、1944年、pp.6-9,17。NDLJP:1059703
^ 名古屋経済評論社（編）『名古屋会社年鑑』昭和11年版、名古屋経済評論社、1936年、pp.68-89。NDLJP:1109475
^ 大桑村（編）『大桑村誌』下巻、大桑村、1988年、pp.324-326
^ 成田潔英 『王子製紙社史』附録編、王子製紙、1959年、pp.151-154,185
^ 『沿革史』、pp.20-21
^ 大桑村（編）『大桑村誌』上巻、大桑村、1988年、p.752
^ 『沿革史』、pp.33-37
^ 『沿革史』、pp.86-86
^ 中部電力電気事業史編纂委員会（編）『中部電気事業史』上巻、1995年、「電気事業沿革図2」
^ 『沿革史』、p.4,95
^ 『沿革史』、p.141,143
- ^ abcdefghijk『沿革史』、pp.161-170
^ 『沿革史』、pp.54-57
- ^ abcdef中部電力電気事業史編纂委員会（編）『中部地方電気事業史』下巻、1995年、p.339,341,343,344
^ 『沿革史』、pp.69-72
^ 『沿革史』、pp.72-74,78
- ^ ab『沿革史』、pp.79-80
- ^ ab『沿革史』、p.111
