アーチ式コンクリートダム






世界で最も高いアーチダム・イングリダム(グルジア)


アーチ式コンクリートダム(アーチしきコンクリートダム、Concrete Arch Dam、CAD)は、主にコンクリートを主要材料として使用し、アーチ止水壁にかかる水圧を両側面の岩盤で支える型式のダム。上空から眺めると河川を横断する堤体が弧を描くように見える。略してアーチダムともいう。




目次






  • 1 特徴


  • 2 世界のアーチダム


  • 3 日本のアーチダム


    • 3.1 主なダム




  • 4 関連項目







特徴




アーチ式コンクリートダムの断面模式図




脆弱な岩盤に建設したため決壊したマルパッセダムの残骸(フランス)


アーチダムには様々な亜型があるが、最も多いのは下流側に湾曲したドーム型アーチ式コンクリートダムである。形状が複雑で設計が難しいが、最も少ないコンクリートの量で建設でき、これが現在まで続く主流のアーチ式コンクリートダムの基本形となっている。このほかにも放物線アーチダムや湾曲していない円筒型アーチダムなどがある。派生した型式としてカナダのダニエルジョンソンダムや日本の豊稔池ダムなどで採用された複数のアーチが連なるマルチプルアーチダムや、ロシアのサヤノシュシェンスカヤダム、アメリカのフーバーダムなどで採用された重力式コンクリートダムの特徴を併せ持った重力式アーチダムがある。


アーチダムはコンクリートの使用量が少なく済み、重力式コンクリートダムに比べて工費圧縮が可能で経済性に優れる。その反面、重力ダムのようにダム自体の重量を利用して貯水池の水圧によるダムを転倒させる力に対抗することが難しい。このためダムに掛かる水圧をアーチで湾曲させることで両側山腹の岩盤に圧力を分散させて水圧に耐える構造となっている。従ってアーチダムを建設するには莫大な水圧に耐えられるだけの強固な両側基礎岩盤の存在が絶対条件であり、建設可能な地点は限定される。フランスのマルパッセダム決壊事故では、基礎岩盤の強度が不十分であったことで試験的に貯水する試験湛水の最中にダムが水圧に耐えられず、岩盤もろともダム堤体が崩壊し大惨事を招いた。マルパッセダム事故はアーチダム施工に大きな影響を与え、日本でも黒部ダムにおいてダムを補強するため両側にウイングを設けて水圧に耐えられるようにした。


洪水吐き(こうずいばき)については、ほとんどのアーチダムに常用洪水吐き(非洪水時・小規模の洪水時の放流設備)が備えられており、ダム堤体中央部に単独または複数のゲートを設置し放流を行う。スキージャンプ式の洪水吐きをダム両側に備えるものや、ロックフィルダムのように山腹に洪水吐きを設けダム自体は洪水吐きを設けない非越流型もある。非常用洪水吐きについては自然越流・ゲート放流を含め中央越流型洪水吐きが多く採用されている。また、多くのアーチ式コンクリートダム堤体下流側の表面には巡視路が設けられている。これはキャットウォークと呼ばれる。ちなみにロックフィルダムにおける巡視路は「犬走り」と呼ばれる。



世界のアーチダム


古くからヨーロッパなどで建設され、中世、スペインに建設されたアリカンテダムは300年間堤高世界一の記録が破られなかったという話が残されている。
既設で最も高いアーチ式ダムはグルジアのイングリダムであるが、中国で建設されているメコン川上流の小湾ダム(シャオワンダム)が完成すると、これが世界で最も高いアーチ式ダムとなる。世界で最も総貯水容量が大きいカリバダム(ジンバブエ・ザンビア)はアーチダムであり、その総貯水容量は約1,806億 t を有し琵琶湖の約68倍の容量を誇る。
















































堤高
順位
国名
ダム名
堤高
(m)
総貯水
容量
(千m3
完成年
備考
1位

中国
小湾ダム
292.0
15,100,000

建設中
2位

グルジア
イングリダム
272.0
1,100,000

1980年
 
3位

スイス
モーボアソンダム
250.0
211,500

1957年
 
(参考)

イタリア

バイオントダム
262.0
168,000

1960年

地すべり事故後、放棄



日本のアーチダム




日本一の高さを誇る黒部ダム(黒部川)


日本に建設されている全てのアーチダムについては、日本のアーチダム一覧を参照のこと


日本では島根県の三成ダム(斐伊川)が河川法上の規定によるダムとしては最初のアーチ式コンクリートダムであるが、大正時代に旧・武蔵水力電気(東京電力の前身の一つ)が埼玉県に建設した浦山堰堤(堤高 14.0 m。現在は浦山ダムに水没。)が日本初のアーチ状堰堤建設例とも言われている。小堰堤まで含めれば青森県にある旧海軍大湊要港部水源地堰堤が、現存する最古のアーチダムということになる。大規模なアーチダムについては土木技術が未発達であったことで、多発する地震や集中豪雨・台風時の洪水処理に対する安全性の不安があって戦前は施工されなかった。


日本で最初の高さ 100 m を超える大規模アーチダムは宮崎県の上椎葉ダム(耳川)である。現在のアーチ式コンクリートダムで見られるオーバーハングした三次元的形状が取り入れられた最初のアーチ式コンクリートダムは和歌山県の殿山ダム(日置川)が最初である。その後アーチダムの研究が活発化するに連れ盛んに建設されるようになり、1963年(昭和38年)に完成した黒部ダムは日本最大のダムとして、日本のダムの歴史に燦然と輝いている。ダムの形状としては美しい外観を有していることから、黒部ダムや温井ダム(滝山川)、豊平峡ダム(豊平川)などのように観光地化しているダムも多い。


強固な岩盤を有する峡谷に建設されることから、犀川や鬼怒川の様に同一河川に集中して建設されている例もある。近年は建設に適する地点が極めて少なくなり、2001年(平成13年)に完成した新潟県の奥三面ダム(三面川)の後は完成例がない。熊本県の川辺川ダム(川辺川)が計画されているアーチダムとしては唯一となるが中止の公算が大きいことから、今後この型式で建設される可能性は極めて少ない。



主なダム







































































































































所在地
水系名
一次
支川名
(本川)
二次
支川名
三次
支川名
ダム名
堤高
(m)
総貯水
容量
(千m3
管理主体
備考

富山県

黒部川
黒部川



黒部ダム
186.0
199,285

関西電力
堤高日本一

広島県

太田川
滝山川



温井ダム
156.0
82,000

国土交通省
 

長野県

信濃川

犀川



奈川渡ダム
155.0
123,000

東京電力
 

栃木県

利根川

鬼怒川



川治ダム
140.0
83,000
国土交通省
 

岐阜県

木曽川

飛騨川



高根第一ダム
133.0
43,568

中部電力
 

群馬県
利根川
利根川



矢木沢ダム
131.0
204,300

水資源機構
 

宮崎県

一ツ瀬川
一ツ瀬川



一ツ瀬ダム
130.0
261,315

九州電力
 

福井県

九頭竜川
真名川



真名川ダム
127.5
115,000
国土交通省
 
栃木県
利根川
鬼怒川



川俣ダム
117.0
87,600
国土交通省
 

愛知県

天竜川
大千瀬川
大入川


新豊根ダム
116.5
53,500
国土交通省
電源開発
 



関連項目



  • ダム

  • コンクリートダム

  • 重力式アーチダム

  • マルチプルアーチダム

  • 日本のアーチダム一覧

  • アーチ

  • 放物線

  • ドーム




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