差別
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差別(さべつ)とは、存在の否定である。特定の集団や属性に属する個人に対して特別な扱いをする行為である。それが優遇か冷遇かは立場によって異なるが、通常は冷遇、つまり正当な理由なく不利益を生じさせる行為に注目する。国際連合は、「差別には複数の形態が存在するが、その全ては何らかの除外行為や拒否行為である。」としている。[1]
ある事柄を差別と判定する場合、告発する者の伝達能力・表現力と受け手の感性に因るところが大きく、客観的事実として差別の存在を証明するのは実際にはそれほど簡単ではない[2]。差別に伴う不条理な事例は第三者には比較的共感を呼びやすいが、差別をする側にいる人々にそれが差別であると認めさせるには困難が伴い、差別問題が差別か正当な区別かで争われる事例も珍しくない。差別を理論的に説明するにはまず差別の定義を行う必要があるが、平等・不平等といった価値命題は科学的に論定することができない。差別は普遍的な実体とし存在するものの、その定義付けは困難であり、定義不能とする研究者も少なくない[2]。
目次
1 差別に関する研究
2 差別の種類
2.1 身分に関する差別
2.2 階級と職業に関する差別
2.3 人種・民族・文化に関する差別
2.4 言語・地域に関する差別
2.5 性に関する差別
2.6 能力に関する差別
2.7 病人に関する差別
2.8 その他
2.9 逆差別
3 日本における差別
4 法律による差別の対応
5 脚註
6 関連項目
差別に関する研究
20世紀以来、差別に関する研究は社会学や心理学の分野で行われている。社会学で行われた差別の研究には、コックスのマルクス主義的社会構造論や、パークやJ.H.ヴァン・デン・ベルクが行った人種差別を優位集団と劣位集団の競争・葛藤関係として分析した研究がある。心理学では差別は偏見の表現行動とされ、偏見が発生する仕組みを解明することで差別を説明する[2]。偏見説の例としてオールポートの研究がある。これらの古典的な差別に関する研究は、差別の一側面を他の分野の理論を応用する形で行われており、差別そのものを包括的に分析したものではなく、説明しきれない現象や予測と異なる現象も多い[2]。
マートンの準拠集団モデルでは、差別は集団間の敵対関係ではなく、同一集団内の特殊なカテゴリー化に内在する問題であるという[2]。また、ミュルダールの『アメリカのジレンマ』仮説と、仮説に対する追研究によって、差別は規範のずれとその対応の問題であること、被差別者は差別を行う人々との一定の関係性によってのみ同定可能であることが示唆されている[2]。
差別の種類
身分に関する差別
前近代社会においては身分制を敷いた社会がある。近代化の過程で社会契約論などによって身分制は再編成され、階級制へと移行した。法学者ヘンリー・サムナー・メインは「身分から契約へ」という言葉を残している。
身分差別
穢れ、賎民、白丁、カースト、穢多、非人
- 部落差別
- 天皇制
家柄差別
黒五類 (文化大革命)、クラーク(一括りに「富農」と蔑称された自作農およびその子孫)、敵対階層
階級と職業に関する差別
階級差別
プロレタリアート、フリーター、ニート、路上生活者、収入による差別、勝ち組・負け組
- 天皇制
- 制限選挙
学歴差別(就職などの面で不利になる場合がある)
職業差別
- 土工
- 百姓
- 徴税人
- と畜
- 性風俗産業に対する差別
人種・民族・文化に関する差別
人種差別・民族差別
- 人種差別や民族差別は古くから存在する。19世紀の西欧諸国では植民地交易を正当化するために人種差別が科学と結びつけられ、社会進化論や優生学を援用した疑似科学に根拠を置くイデオロギーとなった。昨今ではアメリカ合衆国のアメリカ同時多発テロ事件とそれ以降の対テロ戦争、ロシアでのチェチェン紛争と、イスラム過激派のテロ、ヨーロッパへのイスラム教徒の移民問題などから、欧米やロシアでのイスラム国家・社会の出身者に対する差別もある。
先住民族
- アイヌ
- アボリジニ
- インディアン
- インディオ
- エスキモー
- ベルベル人
少数民族
- ユダヤ人
- ロマ
- クルド人
- アッシリア人
- 韓国・北朝鮮による在日コリアンに対する差別(パンチョッパリ)
文化差別
哺乳類肉を食べる文化に対するもの
鯨肉を食べる文化に対するもの
犬食文化に対するもの
ウサギ肉を食べる文化に対するもの
カンガルー肉を食べる文化に対するもの
昆虫食文化に対するもの
爬虫類や両生類などを食べる文化に対するもの- 地域的習俗、祭礼に対するもの
- 各種の趣味に没頭する人(おたく差別など)
言語・地域に関する差別
- 言語差別
差別用語・差別表現(ヘイトスピーチ)
地域的差別・地方差別
- かつての日本では方言などをもって差別の対象となることがあった(東北・東関東、九州、琉球)。
- かつての沖縄本島の人々は、奄美群島・先島諸島や沖縄の離島出身者を差別することがあった(沖縄の奄美差別・沖縄の宮古島出身者への差別)
山口県・会津地方間の相互対立・相互差別- 韓国における全羅道差別、済州島差別(済州島四・三事件、保導連盟事件参照)
- 国籍差別
性に関する差別
性差別
女性差別、男尊女卑
LGBTなどの性的少数者への差別
性的指向による差別
性同一性による差別
能力に関する差別
- 障害者差別
ほか、低所得層への差別や学歴差別・学力差別、老人差別、病人差別なども能力による差別と重なる面がある。
病人に関する差別
- ハンセン病
HIV(エイズ)- 公害病
その他
村落差別(村八分)
年齢差別(雇用における差別や、俗流若者論など)
思想差別
血液型差別 血液型性格分類を参照
宗教差別
容姿差別
被爆者に対する差別(被爆者差別)
種差別(ヒト以外の生物に対する差別)
逆差別
差別を受けているとする人々や団体に対して雇用や教育に関する優遇政策(ポジティブ・アクションなど)がとられることがあるが、これが逆差別であると批判されることがある。
日本における差別
日本では、たとえば江戸時代の身分制社会にも実質的には身分差別があった[3]。1868年の明治維新を経て、翌年、徳川時代の身分制が再編成され、新たに華族・士族・平民の差別が定められる。1871年には穢多・非人の呼称が廃止される。だが後に新平民として新たに差別される。これに対しては全国水平社の運動が興ったものの、名称を特殊部落から被差別部落へと変えても差別意識は残存した。また、西欧の平等思想などを日本へ導入した福澤諭吉は「天の下の平等」を訴え近代化をすすめたが、他方、貧民切り捨て論や東アジア諸国を「亜細亜東方の悪友を謝絶する」とした脱亜論などを展開したことで、近年批判されている。なお、脱亜論については、福澤ではなく石河幹明によるものであるという説もある。
他の差別については上記「差別の種類」の各項目、および穢れ、賎民を参照。
日本近・現代史の研究で著名なアメリカの歴史学者のジョン・ダワーは、日本における差別の特徴として、日本社会の古くからある身内を清浄、ヨソ者を不浄に結びつける心理的態度を紹介している[4]。
精神科医土居健郎は、著書「甘えの構造」の中で、日本人の人間関係の種類として、内と外、を挙げ、“身内にべたべた甘える者に限って、他人に対しては傍若無人・冷酷無比の態度に出ることが多い”[5]点や、日本人が身内と、身内以外の人に対して、“自分の行動の規範が異ることは、なんら内的葛藤の材料とはならない”[6]点を、日本人の特徴として挙げている。
国連人権委員会の特別報告者は調査のため2005年に来日し、日本は差別が「根深く深刻な」国であり、「精神も思考も閉鎖的」な社会だと報告している[7]。
日本は言語による他者の名誉と尊厳に関する差別が激しい社会であり、それを以て礼儀として通用させている。詳細は待遇表現を参照。
法律による差別の対応
現代においては、各国で憲法などにより人権の保障と法の下の平等が謳われ、また市民的及び政治的権利に関する国際規約が差別扇動の禁止を定めている。これにより、直接的に差別をした者を処罰する法令がドイツやアメリカ合衆国などでは整備されつつある。
日本では、日本国憲法第14条第1項において、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定している。この規定を受けて太平洋戦争前には認められていなかった女性の参政権が認められ、また男女雇用機会均等法などの法令が制定されている。2002年3月には人権擁護法案が国会に提出されたが、表現の自由や言論の自由などを制限するものだとして反対の声が強く上がり、2010年7月現在、成立のめどは立っていない。男女平等の観点から選択的夫婦別姓制度や強姦罪や売春防止法の位置づけなどについても現在議論がなされている。
脚註
^ United Nations CyberSchoolBus: What is discrimination? (PDF)
- ^ abcdef坂本佳鶴恵『アイデンティティの権力』 新曜社 2007年 第2刷、ISBN 4788509377 pp.2-19.
^ 現代、士農工商の序列の下にエタ・非人などの被差別階級が置かれていた、という説が広く知られているが、歴史学的にはこれに異議が唱えられている。詳しくは士農工商を参照
^ ジョン・W・ダワー、「容赦なき戦争」、猿谷要監修、2001年、平凡社ライブラリー、394ページ
^ 土居健郎、「甘え」の構造、昭和46年、弘文堂、39ページ
^ 土居健郎、「甘え」の構造、昭和46年、弘文堂、40ページ
^ ガバン・マコーマック、[属国 米国の抱擁とアジアでの孤立]、2008年、凱風社、284ページ
関連項目
関連項目が多すぎます。関連の深い項目だけに絞ってください。必要ならば一覧記事として独立させることも検討してください。(2018年12月) |
- 差別論全般
- ヘイトクライム
- ヘイトスピーチ
- 穢れ
- 侮蔑
- 偏見
- 天皇制
- いじめ
- ステレオタイプ
- 学歴フィルター
マイノリティグループ
- 障害者
- 部落問題
- 性的少数者
病気
ハンセン病患者
エイズ患者
- 法制と差別
- 夫婦別姓
カースト制度- アパルトヘイト
- ポジティブ・アクション
- 差別用語関連
- 差別用語
民族差別用語
- ニガー
土人、ちびくろサンボ
- 放送禁止用語
- 言葉狩り
対外情緒
- 嫌韓
- 嫌中
- その他
- 魔女狩り
- 優生学
- 村八分
- 擬人化
- 人間中心主義
- 反差別闘争
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