性教育
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性教育(せいきょういく、英語:Sex education)は、性器・生殖・性交・人間の他の性行動についての教育全般を意味する言葉。性教育は、学校だけで行われるものではなく、両親・教師・看護師・助産師など子どもの世話をする人々が直接的に行ったり、公衆衛生の宣伝活動の一環として行ったりする。日本の学校では、保健科や家庭科の時間を中心に行われ、体や心の変化(第一次性徴及び第二次性徴、妊娠と出産、男女の相互理解と男女共同参画社会、性別にとらわれない自分らしさを求めること、性感染症の予防や避妊などの内容が扱われている。
目次
1 概説
1.1 日本の性教育
2 性教育の現状
3 性教育の効果
4 各地域の性教育
4.1 北欧
4.2 日本
5 性教育関連事件
5.1 思春期のためのラブ&ボディBOOK
5.2 養護学校での不適切性教育
6 参考文献
7 関連項目
8 脚注
概説
生殖に関する教育は、広義には受胎から胎芽へ、胎芽から胎児へ、そして出産へと移り変わっていく流れを追いながら、新たな命の創造と成長を取り扱う。狭義には性感染症の概念やその予防、避妊法などの内容が、この範疇に含まれる。
学校の教育課程の中に性教育的なものが組み込まれてはいるものの、それを教えることに関して、未だ激しい議論が行われている国もある。性教育はどの段階で開始されるべきなのか、どこまで深く踏み込んで良いのだろうか、セクシャリティや性行動に関する内容(安全な性交の実践、自慰行為、性の倫理感など)も扱うべきなのか、など、様々な論争が巻き起こっている。
アメリカでも、性教育に関する議論が盛んである。特に、子どもの性的行動を取り扱っていくことを善しとするか害と見るかに関して、激しく意見が割れている。より具体的に言えば、コンドームや経口避妊薬などの産児制限、避妊具が婚外妊娠に与える影響力、若年での妊娠、性感染症の伝染などの扱うことの是非である。アメリカの性教育をめぐる論争の火種となっているものの1つとしては、保守系の人々が推奨する純潔教育(禁欲的性教育)への支持が高まっていることを挙げることができる。性教育に対して、より保守的な態度を示す国(アメリカや英国も含め)では、性感染症の蔓延や若年妊娠が高い率で生じている。
1980年代以降、後天性免疫不全症候群(エイズ)の存在が取り上げられるようになり、性教育もその存在を無視することはできなくなった。後天性免疫不全症候群が流行しているとまで言える状態にまで達してしまったアフリカ各国においては、研究者たちのほとんどが、性教育をきわめて重要な公共衛生計画と捉えている。米国家族計画連盟など、国際的な組織の中には、幅広い性教育を実践していくことは、人口爆発の危機を乗り越える/女性の権利を向上させるといった地球規模的な成果を達成することに繋がる、と考えている人々もいる。
日本の性教育
日本では、1890年頃から学生間での風紀の乱れと花柳病の蔓延がメディアを通じて社会問題となり、1900年代ごろから学生の性の扱いに打つ手を持たない教育界を医学界がリードする形で、医学者と教育者との議論によって性教育が形成されていった[1]。初期の性教育の使命は、若者の自然で健全な性欲を衛生的かつ倫理的に適った方向に誘導する、というものであり、議論のポイントは「手淫の害」と「花柳病の害」の予防法だった。しかし、科学に基づいた性知識の普及が学生の性的悪行を刺激し手助けする、という批判から、花柳病の具体的な予防法は教授せずに、若年の性交や恋愛は危険であり学生の間は学業に専念し禁欲せよ、という強制禁欲主義の教育がなされるようになった[1]。また、性欲の制御が難しいが自律的に判断できる年齢である大学生を対象として、自制を目的とした「正しい知識」と呼ばれる花柳病の恐ろしさや性に関する科学的知識を伝授する講義が開かれた。
戦前の性教育学者たちの言説には、明治以前の性的卓越性という男らしさの尺度を禁じつつ、男としてのアイデンティティを保持するために「学生時代は禁欲し、立身し然るべき時期に結婚して一家を成す」という、新しい「男性としてあるべき姿」像が含まれていた[1]。
戦後の日本において、性教育とはお互いの性を人権として認め合い尊重しあう人間関係の教育である。ただし、一部には曲解する人も存在し、処置教育・生理教育・生殖行為に偏る傾向が強く、「健全育成指導」というような狭い見識による認識を持つ人が少なくない。また、「寝た子を起こすな」と言われ、性知識を知らない子供にはあまり詳しい事を教えるべきではないとされてきた。中学・高校では在学妊娠などの風紀上のトラブルの責任を回避したいという理由でも、「禁欲教育」と呼べるようなセックスを害悪視する教育もかつてされていた。極端な例を挙げると自慰すら厳しく禁じていた学校もあった。こういった子供に性知識を与えることをタブーとした風潮が昭和末期まで根強く、後述の参考書籍の回収騒動など、思春期の少年少女に必要な性知識とポルノグラフィとの明確な線引きが確立されていないため、子供の性をタブー視する風潮は現在でも完全には消えていない。
そういった風潮を変えるきっかけの一つになったのが、1985年に放映されたテレビドラマ『毎度おさわがせします』であった。今までタブーであった中学生(一部は小学校高学年)への性的な描写を取り入れ、正しい性教育の知識も身につくような内容にしたことで大ヒットを記録し、性教育の必要性をおおいに世間に提案していた。
こういった状態は1991年まで続いており、性教育は修学旅行や林間学校などが近づいたある日、保健の時間で突然女子だけが教室に残され教わるといった形がとられていた。しかし、近年はこういった事が実際には実態に即していないという意見が強まり、この状況を改善しようとする動きが盛んとなった。1992年、小学校の保健の教科書に精通が載るようになり、これにより男女が名目上は平等に性教育を受けられるようになった。
近年では、児童を対象とした性犯罪や親族らによる児童性的虐待が問題となっており、これらに被害児童の性に対する無知につけこんだ物が多い事から、思春期前のより早期からの性教育によって、子供に自身が性的搾取から保護されるべき権利主体である事を認識させようとする動きが見られるが、これもやはり分別の付かない幼い子供が性知識を持つ事に難色を示す意見がある。性教育を行うこと自体を猥褻な行為、セクシャルハラスメント扱いし、児童を欠席させボイコットさせるという、モンスターペアレントの無理解な行動も起きているとされる。
性教育の現状
教育の効果をどのように測定するかという問題がある。現状は教育の実施を文部科学省、効果の測定は厚生労働省が担っていると言っても過言ではない面がある。
アメリカでは、abstinence-only sex education(禁欲のみを唱えた性教育)、
comprehensive sex education(包括的性教育)他の複数のカリキュラムがある。この二つについてはどちらが良いか、について論争がある。
性教育の効果
アメリカ心理学会の研究では、comprehensive(包括的)なカリキュラムの有効性が示されているとした[2]。comprehensiveなそれの有効性は査読誌の記事の複数によって明白であるとする一方、abstinence-onlyな手法は深刻な危険があるとの指摘がなされている
[3]。
各地域の性教育
北欧
デンマークでは、性教育をカリキュラムの特定の部分に限定せず、必要な際には授業のあらゆる過程で議論される。スウェーデンでも同様であり、かつ性教育は1956年以降必修である。フィンランドでは15歳時に学校でコンドームなどの入った小包を渡される。これらの国はこのような教育の一方で性の早熟化には至っていない。(いずれもTIME[1])
日本
体育・保健体育の授業で小学校4年生で「体の発育・発達」、同5年生で「心の発達及び不安、悩みへの対処」[4]、中学校1年生で「身の機能の発達と心の健康」[5]として性教育を受ける。初めて学ぶ小学校4年生では、思春期初来の平均年齢[6]の関係上、男子は思春期前に学ぶ者が多いが、女子は思春期初来後に学ぶ者が多くなる。
小学校では体や心の変化を中心に取り上げ、自分と他の人では発育・発達が異なり、いじめなどの対人トラブルを起こしやすいことから、発育・発達の個人差を肯定的に受け止めること特に取り上げる。また、発育・発達を促すための食事・運動・休養・睡眠なども取り上げる。中学校では体や心の変化に加えて生殖も取り上げられるが、受精・妊娠までをは取り上げても妊娠の経過は取り上げられない。
一方で初経の授業はあっても、ブラジャーについては学ぶ機会はほとんどなく、思春期の乳房が成長中(途中で初経を挟む約4年間)にジュニアブラを着用せずにノーブラだったり、大人用のブラジャーをつけたりとした問題が起きている[7][8]。
トランクス着用の小中学生が増加したことで一部の自治体では小中学生にブリーフの着用を勧める活動が組織的に行われるようになった。2000年代前半頃より東京都足立区の一部の小中学校では性教育活動に熱心に取り組んでいる女性養護教諭が性教育の一環で小中学生の下着指導を行い、その活動の輪が足立区全体で拡がったことによるものである。養護教諭は男子生徒に体育の授業でトランクスでは陰部が見えるとの理由でブリーフの着用を提唱し、男子生徒にブリーフの着用を実践させている[9]。
性教育関連事件
思春期のためのラブ&ボディBOOK
性行動の低年齢化や人工妊娠中絶、不測の事態の対応について書かれた冊子『思春期のためのラブ&ボディBOOK』が、中学校に無料で配布された[10]。内容の一部が過激だとして批判され2002年に回収・絶版となった[10]。2002年に国会の議論の対象になった[11][12]。
養護学校での不適切性教育
七生養護学校では1996年頃から一部教員らにより、人形や替え歌などを用いて性教育が行なわれており、保護者や寮の職員から学校側に苦情や懸念が相次いだ[13]。2003年7月に東京都議会で民主党の土屋敬之議員が、“一部の養護学校や普通学級で不適切な性教育が行なわれている”と発言[14]。自民党の田代博嗣・古賀俊昭両議員も同調、都は東京都立七生養護学校(現・東京都立七生特別支援学校)で行なわれていた性教育を中止させ、校長他116人の教職員を処分した。産経新聞などはこの教育方法を「まるでアダルトショップ」「猥褻だ」と激しく批判した。
この処分について時の教育長・横山洋吉は「都立七生養護学校では、虚偽の学級編制あるいは勤務時間の不正な調整、それから勤務時間内の校内飲酒などの服務規律違反、その他、学習指導要領を踏まえない性教育など、不適切な学校運営の実態が明らかになったことから、教職員とともに、管理監督責任を果たさなかった校長への処分等を行ったものでございます」と都議会で説明している[14]。
性教育の事例として京都市教育委員会は保健指導の中で独自の性教育を開発している。最近では、生命誕生については用語を知る程度におさえ、自分が父母になったときにどんな子育てをしていきたいかを低学年から考える指導が適切であるという考えもある。
こういった問題を巡っては、「過度な性教育は子供たちに大きな影響を及ぼしかねない」という批判がある[15]。そのため前述の「ラブ&ボディBOOK」問題のように反応の分かれることも多く、この事件でもメディアによって取り扱いが大きく異なっている。
なお、七生養護学校の事件は処分不当として提訴され、2008年2月、東京地方裁判所は教育委員会の裁量権乱用を認め、処分取り消しを命じる判決を言い渡した。また、2009年3月12日、東京地裁(矢尾渉裁判長)は、3議員および東京都教育委員会に対して210万円の損害賠償の支払いを命じた。
参考文献
- 澁谷知美、井上章一(編)、2008、「性教育はなぜ男子学生に禁欲を説いたか:1910~40年代の花柳病言説」、『性欲の文化史』1、 講談社〈講談社選書メチエ〉 ISBN 9784062584258
関連項目
- 性科学
- 子供の性
ヴァギナ・デンタタ - 民話レベルの性教育の教訓話(日本ではアイヌの伝承に同類のものがみられる)。- 性科学映画
純潔教育 - 婚前交渉を否定する方針の性教育。子どもの福祉に有益であるとする考え、あるいは宗教的な偏向であるとする考えなどが存在。- ジェンダーフリー
- 十代の出産
- 性的同意年齢
- 児童の権利に関する条約
- 日本性教育協会
- "人間と性"教育研究協議会
脚注
- ^ abc澁谷 2008, pp. 41-68.
^ “アーカイブされたコピー”. 2006年8月11日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2006年8月11日閲覧。
^ Abstinence Only vs. Comprehensive Sex Education: What are the arguments? What is the evidence? (PDF) - AIDS Research Institute
University of California, San Francisco, Policy Monograph Series – March 2002.
^ 小学校学習指導要綱体育
^ 中学校学習指導要綱保健体育
^ たなか成長クリニック・思春期 男子は約11歳6ヶ月で小学校5・6年生頃、女子は約9歳9ヶ月で小学校3・4年生頃
^ ワコール探検隊|実は…お母さんも自信がないはじめてのブラ
^ ワコール探検隊|「少女」から「おとな」へ約4年間で変化する成長期のバストブラジャー着乗率はstep1(思春期初来(乳首の成長開始)から初経の1年以上前)で31%、step2(初経前後)で56%、step3(初経の1年以上後から成人型乳房になるまで)で90%(大人用のブラジャー57%)
^ 朝日新聞2002年2月25日朝刊家庭欄
- ^ ab性教育の過去20年を振り返り、これから先10年を語る Next Generation Leaders’ Summit 2015 2015.10.05
^ 第154回国会 文部科学委員会 第12号(平成14年5月29日(水曜日))
^ 第155回国会 文部科学委員会 第2号(平成14年11月1日(金曜日))
^ これでいいのか?性教育—教室はアダルトショップ—
- ^ ab“アーカイブされたコピー”. 2008年3月10日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2007年5月11日閲覧。
^ ジェンダーフリーとの戦い―「過激な性教育」実態と克服世界日報)
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