アプト式

アプト式のラックレールとピニオン

3枚ラックの大井川鐵道井川線のラックレール

ラックレールが低い鉄道の特殊な分岐器(大井川鐵道アプトいちしろ駅)

アプト式鉄道の電気機関車(ED42形電気機関車)
アプト式(Abt system)とはラック式鉄道の方式の一つで、2~3枚のラックレールを歯形をずらして設置したものを指す[1]。このアプト式ラックレール走行用の機関車をアプト式機関車という[2]。
カール・ローマン・アプトが1882年に特許を取得した方式で、「アプト式」の名称は開発者の名前にちなむ。「Abt」のドイツ語発声に近い片仮名であるが、日本では過去にアブトと表記されたこともあった[3]。
日本の営業用路線ではこの方式によるラック式鉄道しか存在しなかったため、ラック式鉄道そのものを「アプト式」と誤解して呼ぶことがあるが、ラック式鉄道にはアプト式の他にマーシュ、リッゲンバッハ、シュトループ、ロヒャー、フォンロールの各方式があり(いずれも現存している)、その中で一番よく使用されている(約80%)のがアプト式である[1]。
目次
1 アプト式ラックレール
1.1 日本のアプト方式ラック式鉄道車両
2 脚注
3 関連項目
4 外部リンク
アプト式ラックレール
前述のように「アプト式」とは、2枚または3枚のラックレール(Rack-rail)およびピニオンギア(Pinion-gear)を位相をずらして設置する方式で。複数の歯の位相をずらすことにより駆動力の円滑化および歯の長寿命化を図るとともに、常にピニオンのいずれかの歯がラックレールと深く噛み合っていることによりラックレールの歯が1列だけの方式より安全性の向上が図られ、これ以前にあったリッゲンバッハ式などのはしご状ラックレールより低コストというメリットがある[4]。
登山鉄道はもとより亜幹線鉄道にも世界各地で広く採用され、特にスイスを中心とした欧州の鉄道に多く存在している。日本では、信越本線の碓氷峠では3組のラックピニオンを120度ずらして使用していた。大井川鐵道井川線も3組のラックピニオンを使用している。2組のラックピニオンを180度ずらして使用している例としては、スイスの氷河急行で有名なマッターホルン・ゴッタルド鉄道や蒸気機関車で有名なブリエンツ・ロートホルン鉄道などがある。
日本の鉄道では以下の路線・区間で採用されている。
1893年~1963年 国鉄信越本線横川駅~軽井沢駅間
1990年~ 大井川鐵道井川線アプトいちしろ駅~長島ダム駅間
碓氷峠はラックレールの位置が左右のレールより高く、大井川鐵道井川線は低いという相違がある。このため碓氷峠はキハ58系など一部の車両が通過できず、逆に大井川鐵道井川線は通過車両に制約がないものの分岐器がピニオンを避けるために特殊な構造となっている。
なお信越本線横川~軽井沢間が廃線になった後、碓氷峠鉄道文化むらが開設され鉄道資料館などでアプト式鉄道の展示を行っている。
日本のアプト方式ラック式鉄道車両
- 国有鉄道
- 蒸気機関車:3900形・3920形・3950形・3980形
- 電気機関車:EC40形・ED40形・ED41形・ED42形
- 貨車(歯車車):ピ1形・ピ30形
- 大井川鐵道
- 電気機関車:ED90形
脚注
- ^ ab『新版 鉄道用語辞典』久保田博、グランプリ出版、2003年新版、ISBN 4-87687-247-3、P.7-8「アプト式鉄道」。
^ 『国鉄アプト式電気機関車(上)』小林正義、ネコ・パブリッシング、2011年、ISBN 978-4-7770-5317-9、P.2-3・6・16・40。
^ 土木関係では従来から「プ」で表記していた事と、機械標準用語委員会の決定にならって1953年車両称号規程改正の際に「アプト」に変更された(星晃「車両称号規程こぼれ話」『鉄道』2号(日本鉄道協会・1953年)、16頁)。アブトは英語式の発音とされていた(『鉄道ピクトリアル』377号、49頁)。
^ 『新版 鉄道用語辞典』久保田博、グランプリ出版、2003年新版、ISBN 4-87687-247-3、P.304「ラック式鉄道」
関連項目
- 軌道 (鉄道)
- ラック・アンド・ピニオン
- 歯車
外部リンク
【探訪】ダム湖に浮かぶ秘境の駅 奥大井湖上駅 産経新聞撮影