バラ水

イラン カーシャーンの小規模なバラ水製造所
バラ水(薔薇水(ばらすい、しょうびすい[1])、ローズウォーター)は、バラの花びらを水蒸気蒸留して作られるハイドロゾル分である。この液体は、現在は香水に用いられる精油のバラ油を製造する際の副産物として作られる。用途として、ヨーロッパやアジアで宗教に使用されるほか、様々な化粧品や医薬品、飲食物、香りを付ける用途に使われる。
イラン、インド、インド亜大陸などの国々では、Gulab(グラブ、ペルシャ語でGul(バラ)+Ab(水))と呼ばれる。
目次
1 歴史
2 用途
2.1 食用
2.2 化粧品・医薬品
2.3 宗教的な使用
3 成分
4 主に作られている地域
5 出典
歴史
香料原料としての花の栽培は、サーサーン朝ペルシャにまでさかのぼる[2]。中部ペルシャではgolāb、ビザンチン・ギリシャではzoulápinとして局所的に知られていた[3]。
水蒸気蒸留は、中東(アラビア、ペルシャ)で最初に開発されたプロセスであると考えられている[4]。中世イスラム世界で水蒸気蒸留技術が改善されたことで、現代の様な大量生産ができるようになり、香料産業はより効率的・経済的になった[5]。8世紀終わりから9世紀初頭にアラビア世界で製法が確立され、広く生産されるようになった[6]。イスラム世界の薬剤師たちがこの技術の開発者といえるが[7]、それより後の時代のペルシャ人化学者のアル・ラーズィー(865 - 925)またはイブン・スィーナー(980 - 1037)といった西洋で著名な化学者・錬金術師の名が、水蒸気蒸留の確立に貢献したとして象徴的に挙げられることもある[8]。中世アラビアで、バラの水蒸気蒸留はバラ水を作る目的で行われていた[9]。蒸留技術の進歩によって、より効率的で収益性の高い商材となった。
古来から、バラは薬学的に、栄養的に、そして香粧品の原料として使われてきた。 古代ギリシア人、古代ローマ人、フェニキア人は、広大な公営バラ園を果樹園や小麦畑などの耕作地と同様に重要と考えていた[10]。
バラ油はattar of rosesとも呼ばれ、バラの粉砕された花びらを蒸留して得られる精油である。バラ水は水蒸気蒸留の際にバラ油と共に生成される。
用途
食用
バラ水は非常に独特な風味を持ち、ペルシャや中東の料理、特にロクム、ヌガー、ガムドロップ、バクラヴァなどのお菓子によく用いられる。イランでは、紅茶、アイスクリーム、クッキーなどの菓子類に少量加えられている。アラブ世界、パキスタン、インドでは、フレーバーミルク、およびライスプディングなどの乳製品ベースの料理に使用される。また、紅茶以外の甘い飲み物にも加えられる。バラ水は、料理で使用される赤ワイン等のアルコールが宗教上ハラールとして禁じられているため代替案としてよく使われる。プレミアリーグは、イスラム教徒の選手に報酬を与える際に、シャンパンの代わりにバラ水をベースにした飲み物を提供している[11]。また自動車レースのF1でも、バーレーンGP・アブダビGPなどイスラム圏での開催の際はシャンパンファイトにバラ水を使用する[12]。
マジパンは長い間バラ水で味付けされてきた。元々マジパンは中東から来たもので、中世の頃に西ヨーロッパに伝来した。今でも食後のスナックとして提供されている[13]。
歴史的シリア地方ではお湯で割ったものを白コーヒー(カフウェ・バイダー)と呼ぶ[14]。中東地域では、一般的にレモネードやミルクにもバラ水が加えられている。水道水に含まれる不快な臭いや風味を隠すために、水にもよく添加されている。
ローズシロップは、バラ水に砂糖を加えられて作られる。
化粧品・医薬品
中世ヨーロッパの食事では、宴でテーブルと手を清めるのに使われた[15]。
バラ水は香水にも含まれる成分である。 また、バラ水外用薬は保湿化粧水として使用されることがあり、コールドクリームなどの化粧品に使用されることがある。特に冬の間、インドの一部の人々は保湿と香りのために顔に吹き付けている。インドの結婚式によく振りかけられている。
歴史的シリア地方でも化粧水として用いられている。
宗教的な使用
バラ水は、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、ゾロアスター教などの宗教的な儀式で香水として使われている。
イスラム教では、メッカにあるカアバを掃除する時、ザムザムの泉の水にバラ水を混ぜ使用している[16]。また、葬式で埋葬する時に、亡くなった方を入れる前に墓の穴の中に振り撒く慣習がある。
キリスト教、特に東方正教会では重要視されている。聖金曜日の夕方にバラ水をエピタフィオス(十字架から降ろされたキリストを刺繍した布)と信徒に振りかける儀式がおこなわれる。教会によっては、聖水に加えてイコンなどを洗浄することがある。
バハーイー教では、最も聖なる本 (Kitab-i-Aqdas(en) 1:76)が信徒にバラ水を使用するよう命じている。
成分
中央イランで、ロサ・ダマスケナのがくと花びらから伝統的な水蒸気蒸留によって得られたバラ水を、ガスクロマトグラフィー–質量分析法で分析した。
主にシトロネロール、ノナデカン、ゲラニオール、フェネチルアルコール、そしてhenicosane, 9-nonadecen, エイコサン、リナロール、citronellyl acetate、Methyl eugenol、ヘプタデカン、ペンタデカン、docosane、ネロール、Disiloxane、オクタデカン、pentacosaneなどの多価アルコールが挙げられる。フェネチルアルコールは、バラ水の典型的な臭いの原因となるが、バラ水の製品にいつも含まれているわけではない[17]。
主に作られている地域
- イラン カムサール - 中東最大の生産地[18][信頼性要検証]。また、カムサールの最高品質のバラ水は、メッカのカアバを洗うために1年に2回送られている[19][20]。2015年のイランの公式発表では、「イランのバラ水年間生産量は約26,000tで世界一位である。」と述べている[21]。
オマーン ジュベル・アフダル - 伝統的な産地として有名[22][23]。
ブルガリア バラの谷
- インド ガーズィープル ‐ インド最大のバラ製品の集積地[24]
- モロッコ ケラア・ムグナ - バラとバラ製品の一大産地でバラ祭りが有名
- レバノン en:Kasarnaba
- トルコ ウスパルタ - Gulbirlik社
出典
^ 荻野博「山田憲太郎著 『東亜香料史研究』書評」 流通經濟大學論集 11(2), 62-75, 1976-10 流通経済大学
^ Mirrazavi, F. (March 25, 2013). Retrieved April 29, 2015, from http://sassanids.com/wp-content/uploads/2014/08/Perfume-and-Perfume-Manufacturing-in-Ancient-Iran.pdf
^ Shahbazi, S. (1990). BYZANTINE-IRANIAN RELATIONS. In Encyclopædia Iranica (Vol. IV, pp. 588-599).
^ Adamson, Melitta Weiss (2004-01-01). Food in Medieval Times. p. 29. ISBN 9780313321474. https://books.google.com/?id=jtgud2P-EGwC&pg=PA29&dq=rose+water#v=onepage&q=rose%20water&f=false.
^ Ahmad Y Hassan, Transfer Of Islamic Technology To The West, Part III: Technology Transfer in the Chemical Industries, History of Science and Technology in Islam.
^ 山崎なつ子 『近世ヨーロッパの芳香蒸留水: 治療する貴婦人のホームメイド薬』 Kindle版、2017年
^ ヒロ・ヒライ 『蒸留術とイスラム錬金術』 2014年(初出:「アロマトピア第48号 イスラム文化の香りとハーブ」 フレグランスジャーナル社、2001年)
^ 春山行夫 『花の文化史』 雪華社、昭和39年
^ 杉田英明 『葡萄樹の見える回廊』 岩波書店、2002年
^ “The rose in Ancient times”. Rosense.uk.com. 2012年6月30日閲覧。
^ Gallagher, Ian (2012年8月26日). “Man of the match? Here's your rosewater and pomegranate: Premier League offers non-alcoholic alternative to champagne to avoid offending Muslim players”. Daily Mail. http://www.dailymail.co.uk/news/article-2193671/Man-match-Premier-League-offers-non-alcoholic-alternative-champagne-avoid-offending-Muslim-players.html 2014年10月24日閲覧。
^ ウィリアムズ、バーレーンでのマルティーノとの契約発表はなし? - F1-gate.com・2014年2月20日
^ Adamson, Melitta Weiss (2004-01-01). Food in Medieval Times. p. 89. ISBN 9780313321474. https://books.google.com/?id=jtgud2P-EGwC&pg=PA29&dq=rose+water#v=snippet&q=rose%20water%20marzipan&f=false.
^ 黒木, 英充 (2007). “第一章 東アラブ -乳と蜜の流れる大地の食彩- 一 歴史的シリア”. 世界の食文化⑩ アラブ. 東京, 日本: 農山漁村文化協会. p. 85. ISBN 9784540060038.
^ Food in Medieval Times By Melitta Weiss Adamson
^ Land of the Turquoise Mountains: Journeys Across Iran p70
^ Loghmani-Khouzani H, Fini Sabzi O, Safari J H (2007). "Essential Oil Composition of Rosa damascena". Scientia Iranica 14 (4), pp 316–319. Sharif University of Technology, Research Note
^ Houtum-Schindler, Albert (1897), Eastern Persian Irak, London: Royal Geographical Society, J. Murray, p. 114 . Available from Google books but full view only available in the US.
^ islam today - issue 20 / June 2014 40p
^ Iran rose water smells like big business(PRESS TV)
^ Iran, biggest producer of rosewater in world(PRESS TV)
^ Newspaper, Muscat Daily. “Rosewater distillation, profession of generations in Jebel Akhdar”. Muscat Daily News. 2016年7月9日閲覧。
^ “Oman’s rose water: A history of tradition” (2010年12月8日). 2016年7月9日閲覧。
^ Indigenous Drugs Of India p239