フー・マンチュー

『The Mystery of Dr. Fu-Manchu』の表紙に描かれたフー・マンチュー
フー・マンチュー博士(Dr.Fu Manchu, 傅満洲博士)は、イギリスの作家サックス・ローマーが創造した架空の中国人。西欧による支配体制の破壊を目指して陰謀をめぐらす悪人であり、東洋人による世界征服の野望を持つ怪人である。単行本の第1作「ドクター・フー・マンチューの秘密」によると、フー・マンチューは北京の漢方医であったが、義和団の鎮圧にあたった西欧列強軍によって妻子を殺され、白人への復讐と、世界征覇の野望に燃える冷酷な殺人鬼と化したとされる[1]。
目次
1 概要
2 邦訳
3 映画
4 コミック
4.1 DCコミックス
4.2 マーベル・コミック
5 その他にフー・マンチューが登場する作品
6 文献
7 関連項目
概要
長身痩躯を中国服と中国帽に包み、爪とドジョウ髭を長く伸ばし、常に悪魔のような表情をたたえている。隠秘学、化学、医学、物理学などでヨーロッパの3つの大学で学位を取得するなど非常に明晰な頭脳を持つが、性格は狡猾で極めて残忍。中国やインドで暗殺団を組織し、その黒幕として君臨した。
彼の立案する殺人計画は、一見不可解な方法を大規模に展開するという点が特徴的である。銃撃や爆殺を軽蔑し、短剣や武道、毒蛇や毒虫、毒性の菌類などによる暗殺を好む。
シリーズ初期のフー・マンチューは、シ・ファン(Si-Fan)配下の暗殺者であったが、急速に頭角を現して、秘密結社の長に上り詰めた。
フー・マンチュー博士のモデルは、ローマーが新聞記者としてロンドンの中華街ライムハウスに配属された時に聞き知った暗黒街のボス、ミスター・キングなる人物だとされている。但し、命名などは清のラスト・エンペラーにして満州国皇帝にもなった愛新覚羅溥儀に因む。また何度か映像化もされたが、その際に、唯一の例外早川雪洲を除いて白人俳優が演じている[要出典]。
邦訳
第二次世界大戦以前、改造社「世界大衆文学全集」の一冊として長編第2作「The Return of Dr Fu Manchu」が「悪魔博士」の題名で日本語翻訳されており、 2004年に早川書房から「怪人フー・マンチュー」の題名で復刊された。
映画
フー・マンチュー博士を主演とした映画は数多く製作されている。
最初に映画化されたのは1923年のイギリス、ストール社によりハリー・A・ライアンズ(Harry Agar Lyons)主演で「フー・マンチュー博士の謎(The Mystery of Dr. Fu Manchu)」が映画化される。この作品は日本でも「倫敦の秘密」の題名で1924年に公開された。またライアンズは翌年の「The Further Mysteries of Fu Manchu」にも主演している。
アメリカのパラマウント社よりワーナー・オーランド主演の3本のトーキー映画が製作される。
- 「The Mysterious Dr. Fu Manchu(邦題:フーマンチュウ博士の秘密)」 (1929)
- 「The Return of Dr. Fu Manchu(邦題:続フーマンチュー博士)」 (1930)
- 「Daughter of the Dragon(邦題:龍の娘)」 (1931)
主演のオーランドは、1931年のミュージカル「パラマウント・オン・パレード」でも、名探偵ファイロ・ヴァンスとシャーロック・ホームズを殺害する悪魔博士(=フー・マンチュー)の役を演じている。
1932年にはボリス・カーロフとマーナ・ロイが主演した「The Mask of Fu Manchu(邦題:成吉思汗の仮面)」が製作された。
1940年にリパブリック・ピクチャーズから「Drums of Fu Manchu」が製作され、1943年には再編集版が公開された。
1946年、スペインの無名の映画会社El Otroが、版権未許可のフー・マンチュー映画を製作して以降約25年間、新たなフー・マンチュー映画が製作されることはなかった(1956年に短命なテレビシリーズ「The Adventures of Fu Manchu」が製作されている)。
しかし著者サックス・ローマーの死後である1965年、タワーズ・オブ・ロンドンズはクリストファー・リー主演でフー・マンチュー映画シリーズの製作を開始した。
- 「The Face of Fu Manchu」 (1965)
- 「The Brides of Fu Manchu」 (1966)
- 「The Vengeance of Fu Manchu」 (1967)
- 「The Blood of Fu Manchu」 (1968)
- 「The Castle of Fu Manchu」 (1969)
1968年、伝説的なB級映画監督ジェス・フランコは「怪人フー・マンチュー~女奴隷の復讐(The Blood of Fu Manchu)」と「続・女奴隷の復讐(The Castle of Fu Manchu)」を製作している。
1980年、ピーター・セラーズがフー・マンチューとネイランド・スミスの二役を演じる映画「天才悪魔フー・マンチュー」がピアーズ・ハガード監督で製作された。ただしこの作品はオリジナル小説版のいずれとも関係のない、どちらかといえばパロディ作品である。
2007年、ロブ・ゾンビ監督の小編(『グラインドハウス』のフェイク・トレーラーのひとつ)「Werewolf Women of the SS(ナチ親衛隊の狼女)」にはニコラス・ケイジがフー・マンチュー役で出演している。
コミック
フー・マンチューの最初のオリジナルコミックは、エイボン社の1951年のワンショット(単発物)、『The Mask of Dr. Fu Manchu』である。またイギリスで同じワンショットとして、1956年に『The Island of Fu Manchu』が発表されている。
DCコミックス
DCコミックスの『ディテクティブ・コミックス(Detective Comics)』誌17号にから28号まで、Leo O'Mealiaによるコミックストリップの再版が連載された。
アラン・ムーアのコミック『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン 』でフー・マンチューは「悪魔博士(The Doctor)」として登場し、モリアーティ教授と暗闘を繰り広げる。
フー・マンチューと彼の娘は、『フラッシュ・ゴードン』のミン皇帝(Ming the Merciless)とオーラ姫(Princess Aura)と同様に、『プラネタリー(Planetary)』(DCコミックス/ワイルドストーム)のキャラクター、ハーク(Hark)とアンナ・ハーク(Anna Hark)の父娘のモデルとなっている。フー・マンチューはまた、バットマンにおけるラーズ・アル・グールのモデルとなっている。
マーベル・コミック
1970年代、フー・マンチューはマーベル・コミックの長寿タイトル『マスター・オブ・カンフー(Master of Kung-Fu)』シリーズの主人公、シャン・チー(Shang-Chi)の父として登場した。しかし1980年代になって、マーベル・コミックがキャラクターの使用権を失ったため、後のストーリーラインでは“シャン・チーの「父」”としてだけ表記され、フー・マンチューの名前が取りざたされることはなくなった。
フー・マンチューはまた、マーベル・コミックのニック・フューリーやアイアンマンのシリーズにおけるマンダリンやイエロー・クロウ(The Yellow Claw)といったヴィランのモデルとなっている。
その他にフー・マンチューが登場する作品
キム・ニューマン著『ドラキュラ紀元』
H・C・アルトマン著「フー・マンチューに本当に会った話」
イエロー・マジック・オーケストラ「中国女」(高橋ユキヒロ作曲・クリス・モスデル作詞)
筒井康隆著『大いなる助走』
文献
^ フー・マンチュー とは - コトバンク
関連項目
- 黄禍論
ノックスの十戒 - 5で言及される中国人とはフー・マンチューのような万能の怪人を指す。