核抑止












核抑止(かくよくし)とは、核兵器の保有が、対立する二国間関係において互いに核兵器の使用が躊躇される状況を作り出し、結果として重大な核戦争と核戦争につながる全面戦争が回避される、という考え方で、核戦略のひとつである。核抑止理論、また俗に「核の傘」とも呼ばれる。




目次






  • 1 核抑止


  • 2 抑止


  • 3 核抑止が成立しない場合


    • 3.1 テロリストの核


    • 3.2 敗亡寸前の国家の核




  • 4 問題点


  • 5 「拡大抑止」、「核の傘」への疑問


  • 6 不確実性による抑止の有効論


  • 7 冷戦後の核戦略の変遷


    • 7.1 アメリカ合衆国


    • 7.2 ロシア連邦


    • 7.3 イギリス


    • 7.4 フランス


    • 7.5 中国


    • 7.6 北朝鮮




  • 8 核軍縮


  • 9 非核兵器地帯


  • 10 核抑止論を取り上げた作品


  • 11 脚注・出典


  • 12 関連項目





核抑止


核抑止は2つの意味を持つ。ひとつは国家間の戦争を抑止するというものであり、もうひとつは核兵器の使用を抑止するというものである。


戦争抑止については核兵器保有国と非保有国との間で成り立つと考えられた。これは冷戦初期のアメリカ合衆国のみが核保有国だったころに強い支持を受け、事実、核戦力一辺倒に傾倒し、朝鮮戦争においては兵力に不自由するほどの通常戦力の減勢を行った。


ソビエト連邦が原爆実験に成功して以降、米ソは核戦争に打ち勝つ(国家を破滅させうるだけの)核戦力を構成することに努力が払われたが、米ソ双方の核戦力が相互の国家を破壊できるだけの質量を整えた1960年代以降は、いかに国家の破滅に至る核の使用をためらわせる軍事的経済的状況を維持するかにシフトした。この状況においては必ずしも戦争の抑止は目的とされず、また戦術分野にカテゴライズされた核兵器の使用を否定することにもならない。


1960年代、早期警戒衛星の配備で、米ソは相手の核ミサイル発射をより早く的確に察知できるようになった。これにより敵の核ミサイルが着弾する前に報復核攻撃を決断することが可能になった。


相互確証破壊(Mutual Assured Destruction、MAD、1965年)は最も知られた核抑止理論で、ロバート・マクナマラによって発表された。元は確証破壊戦略(Assured Destruction Strategy、1954年)に遡るが、先制奇襲による核攻撃を意図しても、生残核戦力による報復攻撃で国家存続が不可能な損害を与える事で核戦争を抑止するというドクトリンである。


核兵器も通常兵器も、軍事力による戦争抑止と言う意味では手段に過ぎないため、手持ちの戦力をいかに有効に抑止力に転化させるかという観点から、核抑止理論も大量報復戦略(ニュールック戦略、1954年)、柔軟対応戦略(Flexible Responce Strategy、1961年)、損害限定(Damage Limitation、1964年)、相殺戦略(Countervailing Strategy、1980年)、戦略防衛構想(Strategic Defense Initiative, SDI、1983年)など、時代や技術の変化を受ける。


ソビエト連邦崩壊の直後からロシア連邦の政治的経済的安定が図られた21世紀までの間に、旧ソビエト連邦の核関連技術の流出があり、さらには米国の一極化への対抗から中華人民共和国が支援した事もあり、北朝鮮、パキスタン、イランにおける核拡散が発生した。これらは従来の米ソ二極対立における核抑止とは別の核保有・核兵器使用の動機となるため、別種の対策が必要となる。



抑止


抑止は大きく分けて2つあり、一つは「懲罰的抑止」、もう一つは「拒否的抑止」である。懲罰的抑止とは、相手国に、もし攻撃をすれば自国も攻撃されてしまうと思わせることで、攻撃の意志を挫く形の抑止。いわゆる核の傘で日本を守るという考え方は、この懲罰的抑止に該当する。これに対して拒否的抑止とは、いくら攻撃をしても防がれてしまう為、攻撃しても無駄だと思わせる抑止。ミサイル防衛や核シェルターなどがこれに該当する。



核抑止が成立しない場合


非核兵器保有国に対してであっても、核を使用した場合には同盟した核兵器保有国からの報復(核の傘)が機能する状況であるとしても、それでもなお核兵器の使用を抑制できない例として、次のケースが考えられる。



テロリストの核


現在、米国で非常に重要視されている問題。国家と違ってテロリストには報復核攻撃されて困る都市がないので、世界最強の米国の核戦力を持ってしても、弱小国家以下の存在であるテロリストが米国や同盟国の都市で核兵器を爆発させることを抑止できないというパラドックスである。核抑止は喪失の脅迫で効果を得るので、喪失するものがない非対称な相手には効きにくいともいわれる。しかし、テロリストといえど帰属する国家や奪還すべき土地が明確に存在する場合、報復核攻撃での放射能汚染は懸念すべき事態であると言える。[要出典]



敗亡寸前の国家の核


核保有国同士が武力衝突を起こした場合、戦況が劣勢となった国が局面の打開を目的として核兵器を使用する可能性は否定できない。しかし問題の核心は軍事的劣勢と自国都市がすでに瓦礫になって失うものがないことにあるため、国家体制そのものが保証されるのであれば使用する可能性は低い。また軍事的に優勢になった国も、核を使用されることを恐れて国家体制を転覆するまでの攻勢は思いとどめる可能性が高い。核保有国同士での全面戦争は現在のところ無く、核抑止が通常兵器による戦争をも抑止している、との考えもあるが、核兵器を含む大量破壊兵器を所有しているのではないかという、アメリカの思い込みを一因としたイラク戦争のような件もあるので、一概に核抑止が通常兵器による戦争をも抑止しているとは言い難い。



問題点



  • 国際司法裁判所が1996年に「核兵器による威嚇とその使用は、武力紛争に関する国際法、とりわけ国際人道法に一般的に違反する」と勧告している。


  • 核抑止による平和維持は、「相手が核攻撃するかもしれない」という「相互不信」と「恐怖」が両国間に横たわり、互いの国民等を人質として脅迫し合った中で保たれるものなので、本来の平和とは大きく逸脱しているのではないかということ。

  • 核抑止は「報復も辞さない」という考えも含めたものであるが、相手国に核兵器を使用された時点で甚大な被害が発生するとともに混乱状態に陥るので、(特に首都機能を破壊された場合)実際に報復するというのは相当に困難である。

  • 核兵器を所有することで安全保障が揺らぎ、かえって危うくする可能性がある。

  • 核戦争によって被害を受ける近隣周辺国の存在も考慮しなければならない。例えば、朝鮮戦争が再び起きて北朝鮮軍が韓国に対して核兵器を使用した場合、米軍が中朝国境に対して核兵器による報復的な攻撃を行なえば、韓国だけでなく日本も放射能を含んだ灰を多量に受ける可能性がある。この場合、少なくとも日本は米軍の大量の核爆弾による攻撃には反対するのが予想される。朝鮮半島と日本の例だけでなく、放射能被害を考えれば、近隣国への核攻撃を黙って受容できる国はほぼ無いと考えられるので、たとえ反撃であろうと核を使うことへの反対勢力はすぐに多数の国によって結成されると予想される。また、死の灰は偏西風に流されて全世界に広がる[1]核兵器の使用による被害は周辺国のみならず全世界に及ぶため核兵器の使用は全人類にとって脅威である。[要出典]


「拡大抑止」、「核の傘」への疑問


自国に対する核攻撃を抑止することを「基本抑止」といい、同盟国や第三国に対する核攻撃を抑止することを「拡大抑止」あるいは「核の傘」という。


「核の傘」は、アメリカまたはロシア(1991年以前はソビエト連邦)が、同盟国に対する核攻撃に対して、核による報復をすることを事前に宣言することで、核攻撃の意図を挫折させる理論である。これは、冷戦が終わった現在でも存在している。


一般に、自国に対する攻撃に懲罰的な報復をする旨の威嚇を基礎とする「自己抑止」に比べ、同盟国や第三国に対する攻撃に懲罰的な報復をする旨の威嚇を基礎とする「拡大抑止」「核の傘」には、信憑性が伴いにくいとされる。


「核の傘」に対する信頼性の論議は古くからある。冷戦時代に米ソから「報復をしない」という言質を取れる国家は存在しなかった。米国政府は公式には同盟国への核の傘を一度も否定したことは無く、今後も核の傘の提供を維持することを再三明言している。しかし、それは同盟国や仮想敵国に対する外交戦略としての政治的アピールであり、実際に同盟国が核攻撃を受けた場合、米国が自国民に被害が出る危険を覚悟して核による報復を選択するか疑問がある。
例えば、ロシアが東京を核攻撃しても、アメリカはモスクワを報復核攻撃をせず、「核の傘」提供国としての報復義務を怠るのではないか、といわれている。なぜならば、アメリカがモスクワに報復核攻撃をすれば、ロシアはニューヨークやワシントンなどを報復核攻撃することが想定され、そのような事態は米露の全面核戦争につながりかねず、したがって、アメリカ自身が悲惨な損害を被ることになるから、同盟国や第三国が攻撃を受けた場合に報復核攻撃することは、アメリカにとって割が合わないと考えられるためである。湾岸戦争においてパトリオットミサイルが政治的に大きな効果を上げ、米国がそれ以来ミサイル防衛に熱心なことも「米国は報復義務を怠り、その代わりパトリオットミサイル派遣で済ますつもりではないか?」という疑念を増幅させている。



  • 米国の核の傘に対する否定的な考えは当の米国の政治家や学者からも出ている[2]。米国の核の傘への否定意見の根拠は、直接米国高官にインタビューした経験や、意見交換した経緯などを基にしている。


  • ヘンリー・キッシンジャーは「超大国は同盟国に対する核の傘を保証するため自殺行為をするわけはない」と語っている。


  • CIA長官を務めたスタンスフィールド・ターナー[3]は「もしロシアが日本に核ミサイルを撃ち込んでも、アメリカがロシアに対して核攻撃をかけるはずがない」と断言している。

  • カール・フォード元国務次官補は「自主的な核抑止力を持たない日本は、もし有事の際、米軍と共に行動していてもニュークリア・ブラックメール(核による脅迫)をかけられた途端、降伏または大幅な譲歩の末停戦に応じなければならない」という。

  • 以下の米国の要人が、米国の核の傘を否定する発言をしている。


    • サミュエル・P・ハンティントン(ハーバード大学比較政治学教授)

    • マーク・カーク(連邦下院軍事委メンバー)


    • ケネス・ウォルツ(国際政治学者、カリフォルニア大学バークレー校名誉教授)


    • エニ・ファレオマバエガ(下院外交委・アジア太平洋小委員会委員)



  • 核報復を想定してもなお自国民の被害を顧みないような独裁者が存在することも想定される。

  • 米国が同盟国に対して本当に核の傘を提供するかという議論は、米ソ冷戦時代から存在した。欧州においても論争があり、米国が「欧州が核攻撃されたら米国本土からソ連に対し報復核による攻撃を行う」と説得したものの、欧州諸国は納得せず、米国によるより強い核のプレゼンス(核の傘)を求め、欧州を脅かしていたソ連の中距離弾道ミサイル「SS20」と対等のミサイルを配備するよう求め、結局米国は欧州諸国に中距離弾道ミサイル「パーシングII」を配備することになった[4]


これに対し、アメリカによる「核の傘」の提供は、アメリカを盟主とする一大同盟の存続理由でもあり、たとえニューヨークが消えようがワシントンが吹き飛ばされようが、アメリカが「核の傘」を提供すると明言した以上、報復核攻撃は行われるとする説もある。なぜならば、アメリカが報復核攻撃を行わなかった場合には、アメリカの国際社会における権威が失墜し、アメリカを盟主とする同盟が事実上解体の危機に晒されるなど、アメリカの政治的利益の損失が甚大だからである。言い換えれば、同盟国に対する核攻撃はアメリカの国際社会における覇権に対する挑戦であるので、アメリカは同国の利益のために報復核攻撃を行うであろうとする説である。しかし、このような覇権維持のための軍事報復は核兵器によらずとも可能であり、核による直接報復の必要性は無いとも言える。



不確実性による抑止の有効論


ある国が本当に核兵器によって反撃してくるかという「拡大抑止」問題をゲーム理論でとらえると、その国自身を含めて関係当事国が「その国が核によって反撃するかしないか」本当の答えを知らない、または起こってみないとわからないという点では、その国が核による反撃を行なえばそれを受ける国は壊滅的な被害が予想されるので、その国の同盟国を核攻撃するというリスクに賭ける選択は期待値としてのデメリットが大きいため選択肢から外され、ある程度の抑止になっている、という考えもある。



冷戦後の核戦略の変遷


冷戦期は米ソ両大国が膨大な数の核兵器と運搬手段を生産し、巨大な核報復システムを構築した。目的はまず核攻撃を抑止すること、そして抑止が崩れて攻撃を受けた場合でも相手国を滅ぼすだけの核戦力を生残させ、報復するというものであった。


しかし冷戦の終結によって核報復システムそのものを従来どおりの用途機能で維持する必要性は薄れた。



アメリカ合衆国


アメリカ合衆国の場合は1993年のボトムアップレヴューで示され「同時に発生する2箇所での大規模紛争に対応する」規模にまで削減されることになる。ボトムアップレヴューを受けて1994年に議会に提出された「核態勢の見直し」(NPR)は、ロシア連邦と中華人民共和国を対象としたまま、いわゆる“ならず者国家”と大量破壊兵器を抑止することが盛り込まれ、また国家に支援されないテロリストの核には抑止が効かないことを承認した。1997年、クリントン大統領は大統領決定指令60(PDD60)に署名した。これはレーガン政権での大統領決定司令の内容、すなわち「ソビエトとの長期(6ヶ月)の核戦争を戦い抜き、勝利する」という戦略を放棄したものである。最盛期に7万発を数えた核弾頭を、2001年の戦略兵器削減交渉でブッシュ大統領がロシアのプーチン大統領に提案した1,700〜2,200発前後まで削減するという話は、その後の2002年5月のモスクワ条約で「両国の戦略核弾頭の配備数を2012年までに1,700〜2,200発まで削減する」と明文化されて形となったが、2007年現在での米国内の動きでは、米エネルギー省のNPR02(核兵器再考作業)で「2012年までにICBM用で2,085〜970発、SLBM用MIRVで3,600〜2,100発まで削減する」[1]とされており、今でもモスクワ条約が有効であるかは不明である。


しかし、これは核抑止体制の放棄を目標とするものではなく、ICBM、弾道ミサイル原潜による同盟国への核の傘の提供同様引き続き維持され、ならず者国家を対象に使用される地中貫通核爆弾の開発も継続される。その開発のために核実験を必要とするアメリカはCTBTを批准していない。


アメリカはNATO諸国とニュークリア・シェアリングを行っている。



ロシア連邦


ロシア連邦は原油高による資源輸出(輸出総額の80%)による経済の好調(年6%の経済成長)によって軍事的にも復調しているが、米国と全面的な対決ができる国力や戦力規模ではなく、保有する核戦力は共産党時代(ソビエト連邦)の遺産に頼る部分が大きい。


2000年に策定された「ロシア連邦軍事ドクトリン」は核の使用について「核兵器などが使用された場合のみならず、ロシアの国家的安全にとって重大な状況下での通常兵器を使用する大規模侵攻に対する報復などのため、使用する権利を留保する」としている。ロシア政府は先制不使用の原則は維持されるし、核兵器を政治的な抑止力とする戦略に変更は無いと説明しているが、ブッシュ政権の核の先制使用の宣言に対抗するもので「核の使用については、他のすべての危機解決手段が尽きるか効果が無いと判明した場合には使用できる」ともしている。


2001年のブッシュJr・プーチン両大統領の会談で対テロ戦争について協議され、翌2002年にはSORTにも合意、戦略核弾頭数を1700〜2200発に削減することが決まっている。また、2003年に提出された軍事ドクトリンではロシアならびに同盟国に対する圧力や攻撃に対して「戦略的抑止力を個別限定的に使用することを検討する」としており、アメリカ同様に核兵器による抑止から使用にシフトしているが、CTBTは批准している。なおロシアは核弾頭を保管可能な状態とするアメリカに同調しており、戦略兵器としてカウントされない核弾頭も「ロシア軍の土台として残る」とプーチン大統領も発言している事から、核兵器用の放射性物質が核兵器として使用されないようにする、あるいは民生用途に転用するための何らかの処理を受けているわけではない(SORTは核兵器の削減は求めても廃棄を定めてはいない)。



イギリス


イギリスは核兵器の政治的価値そのものを認めているため、これを放棄するには至っていない。しかし仮想敵の消失に伴い質量ともに削減を続けており、1998年に「戦略防衛見直し」において保有弾頭数を300から200以下に削減することを決定、ブレア首相はSTARTの進展に関わらず削減を進めるとした。同年、空軍が核兵器の運用を停止。海軍はヴァンガード級SSBN4隻を運用しているが、アメリカから導入したトライデントSLBMは最大12個の再突入体を搭載可能なところを3発に制限、1隻あたりトライデント16基で最大48発としている。


この最後の核兵器システムであるトライデントシステムが2010年に寿命を迎える事から、更新の可否によって核廃絶を行う最初の核兵器国になる可能性もあったが、2007年に“与党労働党の反対を野党の保守党が覆す”ことで更新に必要な予算案200億ポンド(約4兆5000億円)が可決され、2050年ころまで核兵器が運用されることとなった。



フランス


フランスは永らくドゴールの提唱した「全方位戦略」を採ってきた。国際関係戦略研究所(IRIS)のパスカル・ボニファス(Pascal Boniface)所長が繰り返しているように、フランスは核兵器の政治的価値を追求している。[5]


1996年にアルビオン高原の核サイロを閉鎖、現在は海軍のSSBNと空軍ならびに海軍航空隊の運用する空中発射型巡航ミサイルASMPによって核戦力を構成している。


シラク大統領は2006年の演説で核戦力維持の方針を明らかにしているが、それが米ロのような具体的かつ実用的な小型核の使用方針とは異なる(核実験場を永久閉鎖したために小型核の新規開発が出来ない)。


フランスはCTBTのオプションゼロを受け入れている。



中国


かつて中国の核戦力が旧式の固定式ICBMでありながら一定の有効性を持ちえたのは、ABMの能力が限定的で、先制攻撃の効果が不確実であるからであり、その状況下であれば、中国の弾道弾は阻止される事が無いが故に米国に(ソビエトに対しても)損害見積もりを突きつけられるからである。


中国は現在軍事支出世界2位14兆円の国で軍事支出面ではロシア連邦を抜き旧ソ連に近づきつつあるが、軍拡が完了するまでは米本土に大量の核を向け米国に敵視されることを慎重に避けていること、核戦力が通常戦力ほど柔軟に使えない事、通常戦力による台湾併合能力構築を優先している事、のため旧ソ連ほどの核戦力の量的拡大は追求しておらず、近代化で、「米国の先制攻撃から生き延びられる生残性の高い少数の報復核戦力」により対米相互確証破壊を構築する事を目指している。


  • 旧式の液体燃料方式のICBMである東風5号は、横穴から引き出して直立させてから燃料を注入して発射する場合(横置き状態で燃料常時充填しておき直立させようとすると重量によりタンク破壊を招く)、衛星による監視で燃料注入を察知した米国によるミニットマンの先制攻撃により発射前に破壊される危険性があったので、一定期間燃料を入れっぱなしにできる直立サイロの建設を徐々に進めていた。最近では、衛星で監視できない移動式で、燃料注入不要で即応発射できる固体燃料方式のICBMである東風31号Aへの更新が進みつつあり、MIRV化した東風41号の開発も進んでおり、両型あわせて100-150基配備する計画との事である。

  • 中国初のSSBN夏型原子力潜水艦は稼働率が低い上に1隻しかなく、搭載する巨浪1号の射程が2500kmしかないため味方空軍の勢力圏外のハワイ以東まで進出せざるを得ず、しかも騒音が大きかったので発射位置に到着する前に発見されて撃沈される可能性が高く、実用核戦力というより習作の色彩が濃いものであった。晋型原子力潜水艦5隻への更新が進行中であるが、晋型原子力潜水艦の搭載する巨浪2号は射程8000kmで中国近海からでも米本土を攻撃できる上、ロシアのルービン研究所からの技術導入で静粛性が飛躍的に向上しており生残性の高い報復核戦力になっている。

2007年1月に衛星攻撃兵器(ASAT)実験を行ったのは、主に米国に対するMD導入への牽制であるか、米国のネットワーク戦の要であるGPSシステムの崩壊能力を示威したものか、または本気で将来、大量に衛星破壊を行なう兵器システムを構築するつもりがあるのか、2007年末現在は判らないが、不意に飛来してくるミサイルの小さな弾頭を迎撃するMDよりは、一定の低軌道を飛ぶ脆弱な一定数の軍事衛星を好きな時と場所で攻撃するASATの開発・運用のほうがより現実的である。軍事衛星をすべて失えば米軍は有効な攻撃が不可能になる[1]。ただし大規模な宇宙空間での破壊行為はケスラー・シンドロームを招くために、世界的な批判に曝されるリスクがあることは、中国も2007年1月の実験で理解しているはずである。



北朝鮮


北朝鮮は「米国の侵略戦争の危険性が現実化している状況で(実験用)黒鉛減速炉による核活動の用途を変更し、自衛的な核抑止力を保有するようになった」と言明している。


しかし、北朝鮮は、中華人民共和国の8倍、200基以上のノドン準中距離弾道ミサイルを日本向けに配備しており、十数か所の在日米軍基地に対する自衛的抑止力と言うには多すぎる。38度線の戦車を旧式のまま据え置いてまでノドンに資金を投入し200基も揃える理由は抑止力では説明が付かない(ただし、200基全てが核弾頭装備というわけではなく、北朝鮮のミサイル搭載可能な核弾頭数は2013年時点の見積もりで23個である)。


そのため、北朝鮮は、核を手段とした「金王朝」による朝鮮半島統一の選択肢を捨てておらず、日米に核ミサイルを突きつけて介入を阻止する意向ではないかと観測する専門家もいる。
[6]


北朝鮮の唱える「自衛的な抑止力」に何故200基もの日本向けノドンが必要なのか明確な公式説明はなされていない(「米国の北朝鮮核攻撃に、米国諸都市ではなく日本の諸都市への報復攻撃で応えるのが北朝鮮の抑止戦略なのではないか」という観測も有る)。


また、北朝鮮当局が運営に関わる組織である「わが民族同士」が「われわれには、世界が見たことも聞いたこともない現代的武器があり、それは単なる見せかけではない」などと主張する動画をインターネット上に公開した事があるが、これは放射線強化型の原爆ではないか、といった指摘がある。


北朝鮮の核ドクトリンは明らかになっていないが、戦略核兵器を用いる時点で報復を招き、自国の滅亡を意味するため、相互確証破壊を高める為に核兵器の質を高める努力を続けているとされる。このような場合、水爆を開発する事が核五大国が採った道であるが、現在の北朝鮮では強化原爆を手に入れた可能性はあるものの、水爆には至っていないと考えられている。そこで戦略核としての用途に限り、コバルト爆弾や窒素爆弾の保有の選択肢を選ぶ可能性も指摘されている。コバルト爆弾や窒素爆弾は攻撃後に占領する事もできないほど強烈な残留放射能を残すと言われ、従来の核保有国では無意味なものとしてアイデアだけのものになっているが、北朝鮮においては米国や日本を占領するプランがあるとは考えにくいため開発を断念する理由にはならないとされる。特に窒素爆弾に関しては大量の炭素14を生じさせ、これは半減期がおよそ5600年という長期の放射能汚染を残すので、相互確証破壊の担保という点では優れており、北技術的にも原爆や水爆のダンパーにコバルトや窒素化合物を用いるのみであるため、原爆を保有する北朝鮮にも可能ではないかとされている。



  • 2009年2月2日、朝鮮人民軍総参謀部は朝鮮半島非核化について「核兵器を保有する当事者が同時に核軍縮を実現する道しかない。南朝鮮での核兵器生産と搬入、その配備と利用、南朝鮮とその周辺地域で我々に加えられるすべての核脅威に対する根源的な清算を目標とする朝鮮半島全域の非核化である」などの見解を表明する[7]


核軍縮


個々の詳細は当該記事を参照のこと。




  • 第一次戦略兵器制限交渉(SALT I) 1969年より交渉開始、1972年5月妥結。


  • 弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM制限条約) 1972年締結。2002年米の脱退で無効化。


  • 第二次戦略兵器制限交渉(SALT II) 1979年に調印したが米議会の批准拒否により1985年に期限切れ失効。


  • 中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約) 1987年調印。1998年発効。1991年廃棄完了。


  • 第一次戦略兵器削減条約(START I) 1991年調印、1994年批准、2001年削減完了。


  • 第二次戦略兵器削減条約(START II) 1993年に調印したが双方は実行せず。

  • 第三次戦略兵器削減条約(START III) 1999年交渉開始するも進展せず。


  • モスクワ条約(SORT) 2002年締結。2012年を削減期限としていた。


  • 第四次戦略兵器削減条約(New START) 2010年調印、2011年発効。



非核兵器地帯


消極的安全保障として非核兵器地帯がある。


非核兵器地帯条約




  • トラテロルコ条約(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約)


  • ラロトンガ条約(南太平洋非核地帯条約)


  • バンコク条約(東南アジア非核兵器地帯条約)


  • ペリンダバ条約(アフリカ非核兵器地帯条約)


  • セメイ条約(中央アジア非核兵器地帯条約)


その他の非核兵器地帯



  • 南極条約

  • 海底における核兵器等設置禁止条約


  • 宇宙条約、月協定



核抑止論を取り上げた作品



  • メタルギアソリッド ピースウォーカー

  • 沈黙の艦隊


  • ウルトラセブン 第26話「超兵器R1号」



脚注・出典



  1. ^ abc高井三郎著 『日本の自前核兵器整備の徹底研究』 軍事研究2007年7月号 p.10-p.52


  2. ^ 伊藤貫著『中国の「核」が世界を制す』参考


  3. ^ Stansfield Turner。元海軍大将。


  4. ^ 中西輝政編著『「日本核武装」の論点』参考


  5. ^ フランスの核抑止力政策


  6. ^ 防衛省防衛研究所主任研究官へのインタビュー記事


  7. ^ 北朝鮮軍参謀部、核保有国間の「核軍縮」を主張 聯合ニュース 2009/02/02



関連項目



  • 軍事力

  • 勢力均衡

  • ミサイル

  • 核兵器

  • 戦略防衛構想

  • ミサイル防衛

  • 核武装論

  • 大陸間弾道ミサイル

  • 潜水艦発射弾道ミサイル

  • 核拡散防止条約

  • 米ソデタント

  • チキンゲーム

  • 日米核持ち込み問題

  • 汝平和を欲さば、戦への備えをせよ




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