観光
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観光(かんこう)とは、一般には、楽しみを目的とする旅行のことを指す。
英語では観光する側(en:sightseeing)と、観光させる側(en:tourism)で言葉が(概念も)分かれている。
これには、後述される宗教行為の対象者(大衆:観光客)と行為者(仕掛け人:観光業者)の立場が現れているとも見られる。
なお狭義には、観光事業を指すこともある。
目次
1 歴史
2 観光とツーリズム
2.1 日本における「観光」
2.2 ツーリズム
2.2.1 「観光」との対比
2.2.2 ツーリズムの付く用語
2.2.3 ビジター産業
3 観光政策
3.1 ヨーロッパ
3.2 日本
4 「観光化」の光と影
5 関連書籍
6 脚注
7 参考文献
8 関連項目
8.1 研究・調査
8.2 産業・地域振興、国際協力
8.3 文化
8.4 弊害、問題点
9 外部リンク
歴史
人類最古の観光の形態は聖地への巡礼の旅であったと考えられている[1]。
例えばスペインでは世界各国からサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者を1000年以上にわたって受け入れてきた歴史がある[1]。
観光とツーリズム
日本における「観光」
日本でも古代から神社仏閣への参詣が行われていた。社会が安定した江戸時代中期以降、伊勢神宮などに参るついでに、名所巡りや飲食を楽しむ旅が庶民にも広がった。これらは「旅」「行旅」「遊山」などと呼ばれた。寺社や景勝地を紹介した各地の名所図会や、『東海道中膝栗毛』のような旅行文学も刊行された。
「観光」の語源は古代中国『易経』にある「観国之光,利用賓于王(国の光を観る、用て王に賓たるに利し)」との一節による。この句を略した「観光」の日本での早い時期の用例としては、幕末にオランダから江戸幕府に贈られた軍艦「観光丸」のほか、明治時代初めの米欧使節団を率いた岩倉具視が、報告書である『米欧回覧実記』冒頭に「観」「光」と揮毫[2]した。後者は「外国をよく観察して、日本に役立てる」という意味だったと思われるが、岩倉自身も東京奠都で衰退した京都経済を再生するため、外国人らによる京都観光を政府に献策している。
鉄道敷設など近代化に伴い日本人の国内旅行も更に盛んとなり、明治時代後半には遊覧旅行の意味で「観光」が使われるようになった[3]。
大正時代以降、観光は「tourism」の訳語として定着したが、学者や論者によって定義が違うこともある。例えば、国土交通省『観光白書』では「宿泊旅行」を「観光」「兼観光」「家事、帰省」「業務」「その他」に分けている。この解釈によると家事、帰省、業務、その他を除いた旅行が「観光」である。
日本政府は昭和5年(1930年)、濱口内閣の時に鉄道省の外局として国際観光局を創設した。岸衛(戦後に静岡県熱海市長を務め、『観光立国』を刊行)が進し、名称は江木翼鉄道大臣の意見によったと言われている。博識であった江木が『易経』を引用した[4]。この時期には、「大変珍しいもの」という程度で用いられていたといった見方もあるが、国際観光局に先立ち1912年にはジャパン・ツーリスト・ビューロー(後の日本交通公社)が設立されている。その出版物TOURIST(1918年3月号)では、アイヌ文化を詳しく伝えて、国の光=文化の概念の普及に努めている。
概括的に言えば、観光は明治時代からある単語ではあるが、きわめて限定的にしか用いられず、むしろ今日で言う外国人観光客誘致、インバウンド誘致といった意味合いが込められていく。ツーリズムの訳語として充てられたのも、そうした時代背景がある。
国内観光には「遊山」「遊覧」「漫遊」「行楽」などの用語が用いられ、今日の意味合いで、つまり、国内旅行の意味も含めていうところの「観光」が定着したのは1960年代以降とされる[5]。
近年、再び國の光を観るという「易経」の解釈が引用されることが多くなってきた。原義を厳密に解釈すると、文字通り「見物」「物見」であろうが、「光」という比喩的表現で対象が幅広く多様な解釈が可能な事も一因であろう。
庶民に観光と言うものが流行り出した当初は、観光に行くという事自体に価値があり、場所や何をするのかということは重点に置かれなかった。しかし、次第に観光に行くということ自体は当たり前となり、何処に行くのかということがステータスとなった。観光地を大きい見出しにしたパンフレット等が流行り出したのもこの時期のことである。しかし、その時代も長くは続かず、たいていの観光地には行ったことがある人が増え、何処に行ったということが自慢になる時代は終わりを告げた。
この頃から観光はステータスではなくなり、純粋な楽しみとしての観光が広まることになる。具体的には場所ではなく目的が観光を引っぱる時代となった。○○をしたいからそれができる場所を観光しようということである。体験型観光が流行り出したのもこの時期からである。現在はこの時代にあると言われるが、もう一歩進んだ次元にあるという考え方もある。それは目的だけでは客は来ない、具体的には楽しい気持ちになりたいとか、癒されたいとか、ゆったりした時間が過ごしたいとか、そういった感情が観光を引っぱる時代となったという考え方である。実際そういう言葉がパンフレット等に登場し始めていることも事実である。
なお、中国では「観光」という語は一般的ではなく、「旅游」「遊覧」が用いられる。中華人民共和国国家観光局の中国語表記は「中華人民共和国国家旅游局」[6]である。
ツーリズム
「観光」との対比
特に近年、「観光」という用語に物見遊山的な、あるいはビジネス的・事業的なニュアンスを感じる場合、あえて「観光」を用いず「ツーリズム」という用語を充てることも増えてきた。原義であるtourは「轆轤(ろくろ)で回す」という意味があるとされ、そういう意味では「周遊」に近い概念と言える。ただ、今日では「ツーリズム」は、「観光」とイコール、さらに広義では業務も含む「旅行」そのものと解釈されている。
しかし、近年はツーリズムという言葉は特に観光業者の間では特別なものと認識されることも増えてきた。かつての物見遊山的な観光をサイトシーイングとして昔の物とし、ツーリズムとは体験型観光として位置づける動きが強まっている。そして、ツーリズム自体もその特性によりさまざまな言葉を付加して区別している。環境に配慮したツーリズムをエコツーリズム、自然特に山や森などを扱うツーリズムをグリーンツーリズム、自然特に海を扱うツーリズムをブルーツーリズムと呼んだり、地域独自のツーリズム名が生まれたりしている。
日本でも都道府県や市町村の観光協会、観光連盟に相当する団体でも「ツーリズム」を冠する例が見られるようになってきた。例えば、兵庫県では、「社団法人ひょうごツーリズム協会」と、大分県では「財団法人ツーリズムおおいた」と「観光」を冠していない。また、大分県竹田市では市町村合併に伴い旧自治体単位であった観光協会を統合、「竹田市観光ツーリズム協会」として再発足した(2006年3月)。
ツーリズムの付く用語
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ツーリズムのつく用語は非常に多い。ただ、概念や理念が先行しているものもある。
アーバンツーリズム、インフラツーリズム、エアラインツーリズム、エコツーリズム、エスニックツーリズム、オールタナティブツーリズム、カルチュラルツーリズム、グリーンツーリズム、クルーズツーリズム、アニメツーリズム、産業ツーリズム、サスティナブルツーリズム、スポーツツーリズム、スポーツ文化ツーリズム、セックスツーリズム、ソーシャルツーリズム、ソフトツーリズム、ダークツーリズム、体験型ツーリズム、ニューツーリズム、ネイチャーツーリズム、ハードツーリズム、バリアフリーツーリズム、フィルムツーリズム、ブルーツーリズム、ヘリテージツーリズム、ヘルスツーリズム、マスツーリズム、メディカルツーリズム、ルーラルツーリズム、歴史文化ツーリズムなど。
- ※表記法として「ツーリズム」の前に「・」を付ける場合もある。
ビジター産業
「ツーリズム」には観光産業という意味もあるが、これに対して「ビジター産業」と呼ぶこともある。もともと米国発の発想で、目的の如何を問わず、その地を訪れる全ての人(ビジター)を対象にしていこうという考え方である。ただし、米国では来訪による移動の距離や宿泊を伴うかどうかにより、近隣や日帰りの場合は除外することもある(溝尾2003年)。
観光政策
ヨーロッパ
ヨーロッパの観光政策では観光事業と歴史的建造物の保存と活用が特に着目されている[1]。
イタリア、フランス、イギリス、アメリカ等の欧米諸国では歴史的建造物の修復や再生、旧市街地の活性化など先進的な取り組みが実施されている[1]。
また、スペインでは観光事業に歴史的建造物の保存と活用を積極的に結びつける観光政策がとられてきた[1]。具体的には歴史的建造物のパラドールとしての活用である。スペインでは1960年代に観光ブームがおこり増大する観光客に対応するために新築のパラドールが次々と建設された[7]。しかし、新築のパラドールの増大は既存の歴史的建造物の中に矛盾する要素を取り込むこととなったとの問題が指摘され、1960年代に建設されたパラドールにはのちに廃止されたものも多い[7]。その後、パラドールを設置する場合にはできる限り古い建物を活用し、芸術的価値・歴史的価値を検討し、その建物が宿泊施設として利用可能かどうか専門家委員会が判断する仕組みが導入されている[7]。
日本
観光基本法の制定に際し、法案作成の事務作業をした衆議院法制局では、観光の法的定義を試みたものの困難であると断念し、観光概念は世間で使われているものと同じ意味であるとしたと伝えられている(運輸省観光局監修『観光基本法解説』学陽書房1963年p.208)。
用語としての観光は、朝日新聞データベース「聞蔵」による検索結果によれば、当初は固有名詞(観光丸、観光社、観光寺等)に使用されるケースしかない。普通名詞として使用された初めてのケースは、1893年10月15日に日本人軍人による海外軍事施設視察に使用された「駐馬観光」である。その後日本人軍人から外国人軍人、軍人以外の者の海外視察等へと拡大してゆき、最終的には内外の普通人の視察にも使用されるようになっていったが、いずれも国際にかかわるものである点ではかわりはなかった。
明治期に多くの概念が西洋から輸入され、漢語を用いて造語され、収斂していった。社会、宗教、会社、情報等がその例として認識されているが、字句としての観光はこれらの新たに造語されたものとは異なり、既に存在していたものである。前述の通り固有名詞の一部として使用され朝日データベースに登場もしている。一方tourismが用語として日本社会において造語しなければならない状況にあったのは現在の資料では不明確である。touristに関してはツーリストと外来語のカタカナ表示がなされていた。
概念の明確化が求められる法令において観光が使用されたのは、1930年勅令83号国際観光局官制がはじめてである。朝日新聞データベースから推測されるように、世間では観光が国際にかかわるものに限定されて使用されていたにもかかわらず国際観光と表現した経緯につき、『観光の日本と将来』観光事業研究会1931年及び『観光事業10年の回顧』鉄道省国際観光局1940年に江木翼鉄道大臣(当時)の強い思い入れがあったと記述がなされている。当時の語感からすれば外遊に国際をつけて国際外遊と表現したかの印象があったのであろう。然しこの時に観光に国際をつけたが故に国内観光の用語の発生する余地ができたとも考えられる。
国際観光局の英文名はBoard of Tourist Industryとなっており、国際にあたる表示はなされていない。朝日新聞データベース「聞蔵」による記事検索では、ツーリストは1913年から外国人にかかわるものとして使用されているが、原語のtourist自体が当時原語国で外国人にかかわるものに限定されていたのかの立証は、これからの研究課題である。ツーリズムという用語については朝日新聞データベース「聞蔵」によれば、戦前は検索されないどころか、昭和末期までほとんど検索結果に表れてこない状況である。なお、観光が国内観光、国際観光を区別しないで使用されるようになったのは、戦後連合国の占領政策が終了する時期、つまり日本人の国内観光が活発化する頃からである。
政府の観光政策審議会の「今後の観光政策の基本的な方向について」(答申第39号、1995年6月2日)」では、観光の定義を「余暇時間の中で、日常生活圏を離れて行うさまざまな活動であって、触れ合い、学び、遊ぶということを目的とするもの」とし、「時間」、「場所・空間」、「目的」の3つの面から規定している。
さらに、「21世紀初頭における観光振興方策について」(答申第45号、2000年12月1日)によると、「いわゆる『観光』の定義については、単なる余暇活動の一環としてのみ捉えられるものではなく、より広く捉えるべきである。」としている。
2008年10月1日、国土交通省の外局として「観光庁」が発足し、第1種旅行業者の登録は、従来の国土交通省大臣登録から観光庁長官登録に変わった。
「観光化」の光と影
宿泊を伴うか否かにかかわらず「観光旅行」の普及と発展は、「観光地」にさまざまなプラスのまたはマイナスの影響を引き起こす。このような現象は「観光(地)化」と呼ばれるが、これについてはマスツーリズムに詳しい。
関連書籍
- 小口孝司 編 前田勇、佐々木土師二『観光の社会心理学―ひと、こと、もの 3つの視点から』千葉大学文学部人文科学叢書 北大路書房 ISBN 4762824968
- Charles R.Goeldner,J.R.Brent Ritchie『TOURISM』 - 欧米の観光学のバイブルである。心理学からマーケティングまでP624の著書である。研究者、大学院生は、必読書である。 John Wily & Sons,Inc. ISBN 9780470084595
脚注
- ^ abcde『現代スペイン情報ハンドブック 改訂版』三修社、2007年、40頁
^ 特命全権大使米欧回覧実記. 第1篇 米利堅合衆国ノ部国立国会図書館デジタルコレクション(2018年1月6日閲覧)
^ 【明治あとさき 維新150年】(1)旅/寺社参詣から文化観光へ 岩倉具視、京都再生へ「誘客」の妙手『読売新聞』朝刊2018年1月1日
^ 富田 昭次『ホテルと日本近代』(学芸出版)
^ 溝尾2003年p8
^ 中華人民共和国国家旅游局
- ^ abc『現代スペイン情報ハンドブック 改訂版』三修社、2007年、41頁
参考文献
溝尾良隆『観光学 基本と実践』(古今書院、2003年)を参考とした。諸外国での解釈や「観光」と「レクリエーション」「レジャー」等の異同についての詳しい説明もある。
寺前秀一「観光情報論序説 ~進化人流論の試み~」『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会)第 11 巻第2号2008年9月 マスコミ、情報との類似性に着目して観光を論じている新しい考え方である。
関連項目
トーマス・クック - パッケージツアーの産みの親で「ツーリズムの父」とも呼ばれる19世紀の英国実業家
研究・調査
観光学
- 観光学部
- 総合観光学会
- 日本観光学会
日本国際観光学会(JAFIT)- アジア太平洋観光学会
Travel and Tourism Research Association(TTRA)
産業・地域振興、国際協力
- 観光協会
- 観光地
観光業
日本の観光 - 日本の観光地一覧
- 旅行
- 観光カリスマ
世界観光機関
- 世界観光の日
- 世界観光ランキング
- 国際観光振興機構
- 旅行・観光競争力レポート
- The Tourism Area Life Cycle
文化
- 紀行
弊害、問題点
- 観光公害
- ツーリストトラップ
外部リンク
- 観光庁
See also Penguin’s Longing - A Project about Sightseeings - - ヴィリー・プフナー
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