建築学
建築学(けんちくがく)とは、建築物の設計や歴史などについて研究する学問である。建築を構造や材料などの工学的な側面と、制度や法規、経済活動について着目し研究アプローチする社会科学的な側面と、デザインや歴史について研究する芸術的・文化的な側面を持つ。
かつての建築家があらゆる課題を各自解決する必要があったように、建築学は総合的学問であったが、建築と一口に言ってもその応用範囲は、広大かつ多岐にわたる。構造的側面、芸術的側面はもとより、都市計画などにおいては、人間社会におけるライフスタイル、ひいては、精神的分野にまで踏み込んだ形で計画され実施される。すなわち、構造分野においては、数理的解釈を必要とする理科学的知識を必要とし、芸術分野においては、精神論的解釈が求められる。またその両者を高い次元において両立させるための総合力が不可欠である。
そのためいわゆる建築学といわれる分野の知識以外にも、機械工学、電子工学、土木工学、精神論、社会学、法学、経済学、語学、環境学、エコロジー分野など、多岐にわたる知識を広く浅く知る必要がある、特殊な学問である。その学問的性質上、現代では完全な分業化が進んでおり、それぞれの分野に特化している。
目次
1 構造系
1.1 建築構造学
1.2 建築材料学
2 計画系
2.1 建築計画学
2.2 建築設備学
2.3 建築意匠学
2.4 都市計画学
2.5 建築史学
2.6 不動産科学
2.7 建築生産学
2.8 その他
3 関連分野
4 名称の変更
5 教育機関
6 関連項目
構造系
建築構造学
他の国では建築学科は工学部に属さないことが大半なので、工学部系の建築関連学部学科で取り扱うことがほとんどであるが、日本の大学では工学部に属する建築学科で学習、研究がなされている。
おもに、鉄筋コンクリート構造や鉄骨構造、木構造などの構造、および構造力学や建築物の物理的な地震災害などについてを研究する。
建築材料学
倒壊、消耗、破損などを防ぐべく、建築に用いられる材質について研究する。また、日本では古来より、木造建築物による火災被害が深刻視され木造建築物が密集した地域が数多く存在していた事により、火災が一度発生すると被害が拡大し、経済的に多大な損失を与えていた為、戦後は主に不燃性、難燃性素材開発を目的とした研究が重要視されてきた。
近年に至り、不燃性、難燃性素材の開発がほぼ完成形を見せる一方、現在では主に地震に対する耐震、免震素材への興味が高まりつつある。
計画系
建築計画学
建築計画学は、
ジャンルごとの建築に求められる機能を探求し、必要な設備、合理的な配置、動線、規模、構造工法の選択、室内最小寸法、備品の数などについて研究する。(平面計画)
建築設備学
建築設備学という学問領域はなく、建築衛生や建築環境工学、建築音響工学の実学的側面を指す俗称あるいは大学でのカリキュラムのジャンルを示すに過ぎない。建築物に用いる設備、すなわち機械設備と電気設備を研究すると狭義に解釈されているが、本来建築環境学として、建築に関わる採光、換気、排煙、暖房と冷房、空気調和工学のほか建物の断熱性能、音響性能などさまざまな事象を数理的に探究する領域である。
建築意匠学
デザインについて研究する造形論をはじめ、建築のあり方や理想像を考究する建築論(建築哲学)、建築家研究を行う作家論、設計手法の理論的研究を行う設計論、図法や図面の描き方を研究する図学などの専門領域に分かれる。なお、広義では、実践的技術としての建築設計を含む。
都市計画学
まちづくり、グランドデザイン、都市建築法規、動線計画、交通工学、衛生工学などを総合的に取りまとめる分野。建築設備学同様、都市計画学という学問領域はなく、やはり都市計画の実学的側面を指す俗称あるいは大学でのカリキュラムのジャンルを示すに過ぎないが、他分野にまたがって都市計画学者が存在する。日本では都市計画学者が集い日本都市計画学会が組織されている。
建築史学
古代以来の各時代や社会と建築の関係、工法の発達などを研究する。造形も学ぶため建築意匠とも関連する分野となる。
不動産科学
建築生産学
“建築生産"という用語が初めて登場したのは当時京都大学に在籍中の西山夘三らによる「DEZAM 7号」(昭和7年)掲載の「建築と建築生産」で、ここでは建築の工業化·合理化をテーマとして生産の後進性が指摘されている。戦後からある時期までの建築生産研究は、日本建築学会の建築経済委員会に属する研究者達によって支えられた。同委員会の建築生産系の研究者は、関東支部建築生産研究会(昭和31年から34年)において建築生産の方法論的·実証的研究に向けての研究活動を開始した。同研究会の設立の目的は①建築生産に関する方法論的研究、②建築生産の性格(生産関係)に関する研究、③建築生産の生産力に関する研究、④建築生産における施工能力、施工技術に関する経済的分析の4点であった。しかし「当時においては、建築生産という考え方は未だ一般的ではなく、研究活動形式においても模索することが多かったと思われる」と「建築学会関東支部30年史」は述べている。その後昭和40年に徳永勇雄により「建築経済と建築生産論の発展」が発表され、ここでは生産論が建設産業論として捉えられる。このような事情を経て、昭和41年に建築経済委員会に建築生産部会が創設され(主査:古川修のちに岩下秀男に交替), 2年後に部会討論の結果を取りまとめて「建築生産論の提起」(代表執筆:巽和夫)を発表、当面の研究課題の連関関係概念図および建築生産論の研究テーマが示された。そこでは「建築研究の中に建築生産論と呼ぶべき総合的研究の必要性を提起したつもりである」と結ばれている。昭和50年に同部会がまとめた「日本の建築生産・研究の現状その2·建築生産文献解題」では「建築生産論が従来いわゆる施工だけを意味するのではなく、設計も材料·構造·設備·経済等々を含んで建築を作る行為全体を一貫的に捉えようとするもの」と述べられている。
その他
建築教育研究、建築経済学、住宅学住居学、文化財修復などの分野や、防災(耐震補強・気象予測・震災火災等予防・避難経路の選定、研究)、海洋学、農村計画分野、近年では環境工学(計画原論)や情報システム工学の面からも研究が行われている。
関連分野
- 環境デザイン
造園学・庭園学・園芸学
- ランドスケープデザイン
エクステリア・エクステリアデザイン
都市計画・アーバンデザイン
- 都市設計
- 都市工学
- 造船学
- 生活科学
- プロダクトデザイン
- 社会工学
- 土木工学
考古学・考現学
芸術学・美学
景観・都市美
- 工芸
インテリア・インテリアデザイン
- スペースデザイン
名称の変更
"Architecture"の訳語としての「建築」という言葉は明治維新に近い幕末の1862(文久2)年に蕃書調書の堀達之助が編纂した「英和対訳袖珍辞書」の中で"Architect"に「建築術ノ斈者」、"Architecture"を「建築斈」に当てられた。札幌の開拓使は“建築”を採用している。一方、明治時代の当初、工部省などで"Architecture"は「造家」としていた。これは上記辞書を刊行した2年後の1864(元治元)年に村上英俊が編纂した「儒語明要」で"Architecture"は「造家」と訳していた。ほぼ同時期にArchitectureを意味する2つの造語が誕生していた。
伊東忠太は、造家学では工学的意味合いが強いため、建築と改めることを提唱する。造家学会、造家学科は建築学会、建築学科などと改められたが、佐野利器らの出現によってまた関東大震災などの影響下で工学的傾向自体は変わらなかった。
教育機関
関連項目
- 建築
- 卒業制作
- 建築学科
- 建築家
- 建築物
- 建築史
- 世界遺産
- プリツカー賞
- 国際建築家連合
新建築 2005年で創刊80年をむかえる月刊誌。建築家の最新作15~25作品と、論文、対談などからなる。日本建築学会賞作品部門などの賞も、ほとんど新建築掲載作品が受賞している。
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