受容体
受容体(じゅようたい、receptor)とは、生物の体にあって、外界や体内からの何らかの刺激を受け取り、情報として利用できるように変換する仕組みを持った構造のこと。レセプターまたはリセプターともいう。下記のいずれにも受容体という言葉を用いることがある。
- 外界や体内からの刺激を受けとる器官のこと。受容器(じゅようき)とも呼ぶ。例えば、視覚情報を受け取る受容体は、目あるいは目の網膜であり、体の骨格筋の伸びの情報を受け取る受容体は、筋紡錘である。
- 外界や体内からの刺激を受けとる細胞のこと。受容細胞(じゅようさいぼう)ともいう。受容細胞は、上記1の受容器の構成成分である。例えば、目の網膜にあって、光を受け取る細胞は、視細胞(桿状体、杆状体)であり、鼻の中にあって、におい分子を受け取る細胞は、嗅細胞(きゅうさいぼう)である。これらが受容体(受容細胞)に相当する。
- 外界や体内からの刺激を受けとる分子やその複合体のこと。シグナル伝達に関わる。多くの場合、上記2の受容細胞の細胞膜上や、細胞質、あるいは核内にあるタンパク質である。例えば、網膜の視細胞には、ロドプシンなどの光受容体が含まれており、ホルモンの作用を受ける細胞には、ホルモンと結合するホルモン受容体が含まれている。
生物の細胞は、すべて、外界の変化を刺激として受け入れ、反応をおこす性質をもっており、この性質を細胞の刺激反応性と呼ぶ。この刺激反応性の現れ方には、単細胞から多細胞への進化、すなわち、体制の複雑化に伴って、さまざまな段階がみられる。
刺激を受け入れる細胞または器官を受容体(受容器)、反応をおこす細胞または器官を作動体(効果器)という。
比喩的に受け皿と似た意味で使われることがある。
目次
1 受容体タンパク質分子
1.1 膜貫通受容体
1.1.1 代謝型受容体
1.1.1.1 Gタンパク質共役型受容体(GPCR, G-protein-coupled receptor)
1.1.1.2 チロシンキナーゼ受容体
1.1.1.3 グアニル酸シクラーゼ受容体
1.1.2 イオンチャネル型受容体
1.1.3 細胞内(核内)受容体
1.1.3.1 核内受容体スーパーファミリー
1.1.3.2 その他の細胞内受容体
2 外部リンク
受容体タンパク質分子
生化学では受容体とは、細胞膜、細胞質または核内にあるタンパク質で、それに特異的な物質(リガンド)、すなわち神経伝達物質、ホルモン、細胞増殖因子その他の物質を結合し、細胞の反応を開始させるものを呼ぶ。つまり細胞外のシグナルを細胞内シグナルに変換する装置である。また様々な薬物や毒物を結合してそのターゲットとなるものも多い。
受容体にはリガンドや機能に応じて様々なタイプがある:
- 多くのホルモンや神経伝達物質に対する受容体は膜貫通タンパク質で、細胞膜の脂質二重層に埋もれている。これらの受容体には、Gタンパク質と共役したものや、酵素あるいはイオンチャネルの活性を有するものなどがあり、リガンドによる活性化により細胞内シグナル伝達を開始する。
- その他の重要な一群の受容体にはステロイドホルモン受容体などの細胞内タンパク質がある。これらの受容体リガンドによる活性化に反応して核内に入り遺伝子発現を調節する。
- 以上挙げたような受容体に構造が似ているがその機能がまだ不明なタンパク質が多く見つかっている。これらはオーファン受容体(孤児受容体)と呼ばれている。これらに結合する薬物の中から医薬品の候補が見付かる可能性があるとして創薬の面からも注目されている。
膜貫通受容体
代謝型受容体
Gタンパク質共役型受容体(GPCR, G-protein-coupled receptor)
Gタンパク質共役受容体は、三量体Gタンパク質を介して細胞内にシグナルを伝える。ポリペプチド鎖が膜を7回貫通するという構造的特徴を有しているので、7回膜貫通型(7TM)受容体とも呼ばれる。
- ムスカリン性アセチルコリン受容体:神経伝達物質アセチルコリンの受容体の一種で、キノコ由来の毒物ムスカリンを結合する特徴がある。
アデノシン受容体:神経伝達物質アデノシンの受容体。カフェインも結合する。
アドレナリン受容体:アドレナリンやその他の構造が類似したホルモン、薬物を結合する。- GABA受容体(B型)
アンギオテンシン受容体:アンギオテンシンの受容体
カンナビノイド受容体:大麻成分およびアナンダミド等の内在性リガンドを結合する。
コレシストキニン受容体:コレシストキニンの受容体
ドーパミン受容体:ドーパミンの受容体
グルカゴン受容体:グルカゴンの受容体
ヒスタミン受容体:ヒスタミンの受容体
嗅覚受容体:嗅覚細胞にある、におい物質の受容体。(2004年度ノーベル生理学・医学賞対象)
オピオイド受容体:アヘン成分および内在性ペプチド性リガンド(エンケファリン、エンドルフィン等)を結合する。
ロドプシン:網膜にある光受容体。
セクレチン受容体:セクレチンの受容体
セロトニン受容体:セロトニンの(5-ヒドロキシトリプタミンまたは5-HT)受容体(3型を除く)
ソマトスタチン受容体:ソマトスタチンの受容体
ガストリン受容体:ガストリンの受容体
P2Y受容体:ATPなどプリンヌクレオチドの受容体
など、多数ある。
教科書には単量体としてのみ機能しているかのように記載されているが、二量体以上の高次複合体としての機能も多数報告されており、詳細については未解明である。
チロシンキナーゼ受容体
- 受容体の細胞内部のチロシン残基をリン酸化してシグナルを伝達する。
- インスリン受容体
- 細胞増殖因子の受容体
サイトカインの受容体:別のチロシンキナーゼによってリン酸化される。
グアニル酸シクラーゼ受容体
GTPからサイクリックGMPを合成する酵素活性をもつ。
- GC-A、GC-B:心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)やその他のナトリウム利尿ペプチドの受容体。
- GC-C:グアニリン受容体
イオンチャネル型受容体
リガンド刺激によりイオンを透過する。どのイオンを透過させるかはイオンチャネルの特性によって異なり、特定のイオンのみを透過するチャネルもあれば、いくつかのイオンを透過させるチャネルもある。
- ニコチン性アセチルコリン受容体:アセチルコリン受容体の一種で、ニコチンを結合する特徴がある。ナトリウムイオンを透過する。
- グリシン受容体:神経伝達物質としてのグリシン、薬物ストリキニンを結合する。塩化物イオン(塩素イオン)を透過する。
GABA受容体(A型、C型):塩化物イオン(Cl-)を透過する。その結果、膜電位が下がり、過分極となり、活動電位が出にくくなる。
グルタミン酸受容体:神経伝達物質としてのグルタミン酸を結合する。結合する薬物によりNMDA受容体、AMPA受容体、カイニン酸受容体に分けられる。いずれもナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどの陽イオンを透過させるが、透過させるイオンの種類は受容体サブタイプによって異なる場合もある。- セロトニン受容体3型
イノシトールトリスリン酸(IP3)受容体、およびリアノジン受容体:いずれも細胞膜でなく小胞体膜にあり、リガンドに反応して小胞体内のカルシウムを細胞質に放出する。前者は細胞内在性のIP3に反応する。後者はアルカロイドのリアノジンに反応することから命名されたが内因性リガンドはcADPR(サイクリックADPリボース)であるとされている。
P2X受容体:ATPなどプリンヌクレオチドの受容体- このほか、受容体とは呼ばないが細胞の膜電位に反応して作動する電位依存性イオンチャネルがある。
細胞内(核内)受容体
核内受容体スーパーファミリー
ステロイドホルモン受容体:細胞質または核内にあり、リガンドが結合すると特定の遺伝子のDNA配列に結合してその遺伝子を活性化する。内分泌攪乱物質の結合ターゲットとしても考えられている。
- 性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン)受容体
ビタミンD受容体- 糖質コルチコイド受容体
鉱質コルチコイド受容体
甲状腺ホルモン受容体- レチノイド受容体:ビタミンA関連化合物を結合する。
ペルオキシソーム増殖剤受容体 (PPAR)- 昆虫の脱皮ホルモン(エクダイソン)受容体
その他の細胞内受容体
- ダイオキシン受容体(芳香族炭化水素受容体、AhR):ダイオキシンのほか、多くの芳香族化合物を結合する。他の細胞内受容体とは構造が大きく異なる。
なお、細胞上でウイルスなどの病原体が結合する分子も受容体と呼ぶが、これはタンパク質とは限らず脂質、多糖の場合もある。
外部リンク
核内受容体 - 脳科学辞典
グリシン受容体 - 脳科学辞典
GABA受容体 - 脳科学辞典