ひまし油

ひまし油
ひまし油(ひましあぶら、ひましゆ、蓖麻子油)は、トウダイグサ科のトウゴマの種子から採取する植物油の一種。
目次
1 用途
1.1 工業原料
1.2 医薬
2 その他
3 関連文献
4 脚注
4.1 注釈
4.2 出典
5 参考文献
6 画像一覧
7 関連項目
8 外部リンク
用途
工業原料
戦時中のポスター(1940年–1945年)
成分は不飽和脂肪酸(リシノール酸が87%、オレイン酸が7%、リノール酸が3%)と少量の飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸などが3%)のグリセリド。ひまし油は、脂肪油としては粘度、比重ともに最大であるのに加えて、広い温度域で高い流動性をもつため、各種工業用の原料として広い用途がある。高粘度であり油性が高いため潤滑性は大変優秀であるが、酸化されやすく熱安定性が劣るため一般用途では不向きである。なお植物油としては極めて高粘度ではあるが粘度指数はさほど高くはなく、一般的な植物油[注釈 1]より大きく劣り、現代の潤滑用の一般鉱油よりも若干劣るレベルである。
その優れた性状と潤滑性から古くは機械油一般に用いられ、初期の航空機用エンジンの潤滑油としても使用される事が多かったが、航空機ではエンジンの高出力化と熱と酸化への安定性の不足から第二次世界大戦の頃には航空機用潤滑油は鉱油系が主力となった。上記の理由以外に植物由来であるため製造時期や生産地による品質のばらつき、鉱油に比べて高価といった事も全体的な鉱油への移行の要因となった。現代では短時間でそのつど交換するレース用エンジンオイルやラジコン用のグロー燃料(オイルとして配合)などで使用される。
ひまし油およびその加工品は、石鹸(せっけん)、 廃天ぷら油処理剤(凝固剤)、潤滑油、作動油、塗料、インキ、ワックス、耐低温樹脂、ナイロン、医薬品、香水、髪油(ポマード・びん付け油)などの原料として用いられる。
また、セバシン酸の原料としても重要である。有毒なリシンもひまし油生産時の副産物として作られる。
医薬

Scott & Bowne companyによる医薬品としてのヒマシ油の広告(19世紀)

病気の子供にヒマシ油を飲ませる(1894年フランス)
用途の中で、1%程度を占めるに過ぎないが、伝統的に下剤として用いられ、日本薬局方にも収載されている[3]。医師によってはリチネと略記する[4]。また、ケニアのキクユ族は「maguta ma mbariki」[5]あるいは単に「mbarĩki」[6]と呼び、皮膚の保護や軽い傷の手当をする際などに用いる[7]。
四体液説がベースにあり、傷みやすい肉を常食していたヨーロッパ・アメリカの伝統医療で下剤としてよく使われた。ヒマシ油の服用は、千年近く正式な医療行為の一環だった。とくにアメリカ北部では現在も万能薬のように扱われている[8]。
その他
- 命名の由来
カストロール(Castrol)社の名称は、ひまし油の英語名(castor oil)に由来する[9]。- アニメ『ポパイ』の主人公の恋人オリーブ・オイルの兄はキャスター・オイル(Castor Oyl)(英語版)という名であるが、同様にひまし油の英語名をもじっている。
- いたずらの罰
- アメリカでは昔、いたずらの罰として子供に飲ませることがあり、『トム・ソーヤの冒険』『若草物語』などの児童文学にそういった描写がある[8]。
- アニメ『トムとジェリー』の挿話『赤ちゃんはいいな』では、トムが飼い主の娘の赤ちゃんごっこに付き合わされた際に、トムは娘におとなしくしていなかった罰としてラストでひまし油をスプーンで無理矢理飲まされるというエピソードがある。その直後にトムは窓の外にひまし油を吐き、同じ様にひまし油を飲んだジェリーも吐いている。
スティーヴン・キング原作の映画『スタンド・バイ・ミー』の劇中で語られるエピソードで、ベリーパイの早食い大会を滅茶苦茶にしようと企む少年が事前にひまし油を服用し盛大に嘔吐し、他の選手もそれにつられて嘔吐し始め、みごと大会を混乱の渦に叩き込んだ、というものがある。
- 緩下作用
イタリアのムッソリーニ率いるファシスト党は、自白を強要するために大量のひまし油を飲ませる拷問を行ったという。下痢によって死亡したものもいると言われる。- 戦後日本でも、天ぷら油として使われ飲食者の下痢を招いた。風味は良かったという者もいる[10]。
- 外用
ギリシャではひまし油は体に塗る油として用いられていた。- 心霊治療家のエドガー・ケイシーは、ひまし油をフランネルに浸し、ヒーターを添えて体に当てて湿布する方法を提唱している。
- 『医心方』巻の四[注釈 2]には「髪に艶を出す方法」として大麻子(トウゴマ)から取った汁、つまりひまし油を髪油として使うことが記載されている。
関連文献
丹波康頼 『医心方』4、出版者不明、1860年。[13]
脚注
注釈
^ 粘度VIはそれぞれ菜種油117[1]、コーン油298[1]、ひまわり油205[2]、大豆油301[1]。
^ 『医心方』原書[11]に対する解説付きの現代版がある[12]。
出典
- ^ abc灘野宏正、中迫正一、河野正来、南一郎、山口博幸「03-0435 四球試験における植物油の耐焼付き性能に及ぼす耐摩耗添加剤の影響 [Fig. 1. Variation in kinematic viscosity of base oils against oil temperature]」 (pdf) 、『日本機械学会論文集(C編)』第70巻690号 (20042)、 doi:10.1299/kikaic.70.554、 ISSN 0387-5024、 NAID 130004235080、2018年10月4日閲覧。
^ 光宗将太「植物油に適する耐摩耗添加剤の開発 [平成12年度卒業研究]」、高知工科大学 工学部物質・環境システム工学科、2001年3月、2018年10月4日閲覧。
^ “日本薬局方 加香ヒマシ油”. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構. 2018年10月4日閲覧。
^ 日本薬剤師会 2008, p. 62.
^ (英語)“Castor Oil: Maguta ma Mbariki”. 2016年1月5日閲覧。
^ (英語)“Kikuyu Language online: phonology”. 2016年1月5日閲覧。
^ 杜 2015, p. 225.
- ^ ab秦野啓、司馬炳介 『魔法の薬 : マジックポーション』 新紀元社編集部; ファーイースト・アミューズメント・リサーチ [編]、新紀元社〈Truth in fantasy〉、2002年。ISBN 4-7753-0095-4。
^ “History of Castrol [カストロール社の沿革]” (英語). BP p.l.c.. 2014年6月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年6月8日閲覧。
^ 平野, 小林 1976, p. 285.
^ 丹波康頼 『医心方』4、出版者不明、1860年。
^ 丹波康頼 『医心方』巻4: 美容篇、槙佐知子、筑摩書房、1993年。ISBN 9784480505149。NCID BN09250206。
^ 丹波康頼 『醫心方』4、與謝野寛; 正宗敦夫; 與謝野晶子 [編纂校訂]、日本古典全集刊行會〈日本古典全集〉、1935年。NCID BN06180057。
参考文献
- 平野正章、小林菊衛 『てんぷらの本』 柴田書店、1976年、285頁。NCID BN06167729。
- 秦野啓、司馬炳介 『魔法の薬 : マジックポーション』 新紀元社編集部; ファーイースト・アミューズメント・リサーチ [編]、新紀元社〈Truth in fantasy〉、2002年。
- 灘野宏正、中迫正一、河野正来、南一郎、山口博幸「03-0435 四球試験における植物油の耐焼付き性能に及ぼす耐摩耗添加剤の影響 [Fig. 1. Variation in kinematic viscosity of base oils against oil temperature]」 (pdf) 、『日本機械学会論文集(C編)』第70巻690号 (20042)、2004年2月、 doi:10.1299/kikaic.70.554、 ISSN 0387-5024、 NAID 130004235080、2018年10月4日閲覧。
日本薬剤師会, ed. (2008), 調剤指針 (第12改訂増補 ed.), 薬事日報社, p. 62, ISBN 9784840810517
- 杜由木 『夜には、夜のけものがあるき昼には、昼のできごとがゆく : 東アフリカの天界・地上・生きもの・人の世 : ことば・ことわざ談義』 東京図書出版、2015年、225頁。ISBN 978-4-86223-828-3。
画像一覧
ひまし油の化学式
トウゴマ
Ricinus communis
トウゴマの果実
トウゴマの種子
関連項目
- 植物油
- 脂肪酸
- ウンデシレン酸
外部リンク
国際化学物質安全性カード ヒマシ油 日本語版 - 国立医薬品食品衛生研究所 (英語版)