翼幅荷重




翼幅荷重(よくふくかじゅう, 英: Span loading)とは、固定翼航空機や鳥などの飛翔体の、主翼翼幅の単位長さあたりに加わる荷重(重量)のこと。同じ重量の2飛翔体を比較した場合、翼幅荷重の低いものは、もう一方に比べて主翼の幅が大きいことになる。抗力の一部である誘導抗力は翼幅荷重の二乗に比例するため、飛翔体の性能を表す指標として使われることがある。




目次






  • 1 誘導抗力との関係


    • 1.1 文字の定義


    • 1.2 誘導抗力の導出


    • 1.3 誘導抗力係数とアスペクト比




  • 2 実機における例


    • 2.1 亜音速機


    • 2.2 超音速機




  • 3 脚注


  • 4 関連項目





誘導抗力との関係


定常水平飛行している飛翔体の翼に生じる誘導抗力は以下のように表せる[1][2]



文字の定義


文字を次のように定義する。




  • L = 局所流に対する揚力。一様流の垂直方向からはφだけ傾いている


  • CL = 揚力係数


  • W = 重量


  • Di = 誘導抗力。局所流に対する揚力 の水平成分


  • CD,i = 誘導抗力係数

  • φ = 流入角、誘導角。一様流と吹き下ろしとのなす角。φ は小さいため cos⁡ϕ1, sin⁡ϕϕ{displaystyle cos {phi }simeq 1, sin {phi }simeq phi }{displaystyle cos {phi }simeq 1, sin {phi }simeq phi } と見なせる

  • ρ = 流体の密度


  • V = 飛行速度(一様流速度)


  • v = 吹き下ろし速度


  • U = 局所流速。ここでは使用しないが U=V2+v2 (≃V){displaystyle U={sqrt {V^{2}+v^{2}}} (simeq V)}{displaystyle U={sqrt {V^{2}+v^{2}}} (simeq V)} の関係がある


  • b = 翼幅、スパン。左右の翼端間の距離


  • S = 翼面積。翼を真上から見たときの投影面積


  • AR = 翼のアスペクト比。AR := b2/S で定義される


  • e = Oswald 効率係数、スパン効率係数などと呼ばれる係数。翼平面形が楕円翼からどれだけ離れているかによって与えられる。楕円翼で e = 1, その他の平面形では 0 < e < 1 であり、一般的には e = 0.7 - 0.95 程度である[3][4]


  • ARe = 有効アスペクト比。ARe = eAR により与えられる


  • be = 有効翼幅。ARe = be2/S から be=AReS=bARe/AR=be{displaystyle b_{e}={sqrt {A!mathrm {R} _{e}S}}=b{sqrt {A!mathrm {R} _{e}/A!mathrm {R} }}=b{sqrt {e}}}{displaystyle b_{e}={sqrt {A!mathrm {R} _{e}S}}=b{sqrt {A!mathrm {R} _{e}/A!mathrm {R} }}=b{sqrt {e}}} で与えられる



誘導抗力の導出


運動量理論から、局所流についての揚力 L は、


L=12ρπbe2Vv{displaystyle L={frac {1}{2}}rho pi {b_{e}}^{2}Vv}{displaystyle L={frac {1}{2}}rho pi {b_{e}}^{2}Vv}

と表せる。局所流は吹き下ろしによって一様流から角度 φ だけ傾いている。φ が小さいため、


ϕ:=tan−1(v/V)≃v/V{displaystyle phi :={tan }^{-1}(v/V)simeq v/V}{displaystyle phi :={tan }^{-1}(v/V)simeq v/V}

とできて、ここから v を消去すると


ϕ=L(1/2)ρV2Sπbe2{displaystyle phi ={frac {L}{(1/2)rho V^{2}Spi {b_{e}}^{2}}}}{displaystyle phi ={frac {L}{(1/2)rho V^{2}Spi {b_{e}}^{2}}}}

が求まる。また重量は揚力の鉛直成分(すなわち一様流に対する揚力)と等しいが、やはり φ が小さいために


W=Lcos⁡ϕL{displaystyle W=Lcos {phi }simeq L}{displaystyle W=Lcos {phi }simeq L}

とできる。したがって誘導抗力 Di は、


Di:=Lsin⁡ϕ=W2(1/2)ρV2Sπbe2=2πρ(Wbe)21V2{displaystyle D_{i}:=Lsin {phi }simeq Wphi ={frac {W^{2}}{(1/2)rho V^{2}Spi {b_{e}}^{2}}}={frac {2}{pi rho }}{left({frac {W}{b_{e}}}right)}^{2}{frac {1}{V^{2}}}}{displaystyle D_{i}:=Lsin {phi }simeq Wphi ={frac {W^{2}}{(1/2)rho V^{2}Spi {b_{e}}^{2}}}={frac {2}{pi rho }}{left({frac {W}{b_{e}}}right)}^{2}{frac {1}{V^{2}}}}

となる。この式から、誘導抗力が翼幅荷重 W/be の2乗に比例することがわかる。



誘導抗力係数とアスペクト比






「翼幅荷重の二乗に比例」と言っても、実際には翼幅だけを変えるわけにはいかない。必要な揚力を生み、同時に形状抗力をできるだけ低減するためには、一定の翼面積(ないし翼面荷重)が要求される。翼面積を一定に保ったまま翼幅を変えるということは、アスペクト比を変えていることに他ならない。


また別の観点からは、力のように有次元の値でなく、無次元の係数によって評価することが好まれる場合もある。たとえば風洞において計測された模型の抗力と実機の抗力とは当然異なるが、相似則を満たしていれば抗力係数は一致する。


こうした理由から、誘導抗力係数 CD,i


CD,i=CL2πARe{displaystyle C_{D,i}={frac {{C_{L}}^{2}}{pi A!mathrm {R} _{e}}}}{displaystyle C_{D,i}={frac {{C_{L}}^{2}}{pi A!mathrm {R} _{e}}}}

と表し(導出は省略)、(有効)アスペクト比の大小で誘導抗力係数を語ることも多い。この場合誘導抗力は


Di:=12ρV2SCD,i{displaystyle D_{i}:={frac {1}{2}}rho V^{2}SC_{D,i}}{displaystyle D_{i}:={frac {1}{2}}rho V^{2}SC_{D,i}}

と求まる。



実機における例



亜音速機


上記のように、誘導抗力は飛行速度の逆数の二乗に比例する。一方で、形状抗力は速度の二乗に比例するため、高速で飛行するほど全機の抗力に対して誘導抗力が占める割合は小さくなる。したがって、亜音速で飛行するレシプロ機のような、あまり高速で飛行しない飛行機では、全機の抗力に対して誘導抗力の占める割合が逆に大きく、誘導抗力に二乗で効く翼幅荷重の影響も大きくなる。


例えば第二次世界大戦当時の大型爆撃機や輸送機などでは、燃料消費を少なくし経済性を高めるために抗力の減少が求められるので、より翼幅荷重が小さくアスペクト比が大きい、すなわち細長い翼が求められる。同様の事は現代のジェット旅客機や、滑空機(グライダー)、ひいては鳥や翼竜などについても言える。


一方、翼幅荷重が小さい(つまり翼の幅が大きい)航空機は、重心から離れた位置にエルロンを配する事ができるため、エルロンの効きがよくなり横転性能が向上するという利点がある。第二次世界大戦のドイツのフォッケウルフ Fw190やTa-152は横転性能を重視し、翼幅荷重を低くする(主翼の大アスペクトレシオ化)設計に努めている。またエルロンの効きがよい事は、 エルロンを小面積化ないし小角度にしてもよいため、旋回時の空気抵抗を小さくし、旋回率を高める効果があるため、日本陸軍の三式戦闘機は、こういった観点から翼幅荷重を小さくする設計に努めている。



超音速機


超音速で飛行する機体においては、前述の理由に加えて、飛行速度が音速を超えるあたりで増大する造波抗力のために、全機の抗力に対して誘導抗力が占める割合自体が小さくなる。また造波抗力低減のために主翼に後退角をつける必要が生じ、大きな翼幅を確保することが困難になるなどの理由で、前時代の亜音速機ほどには翼幅荷重の追求に対する優先度は高くない。実際に戦闘機ではデルタ翼やクリップトデルタなど、超音速輸送機 (SST) でもダブルデルタやオージー翼、クランクトアローなどといった、アスペクト比の大きくない、翼幅の小さな翼平面形が採用されることが多い。


とはいえ例外も存在し、F-5戦闘機やF/A-18戦闘攻撃機は翼幅荷重を小さくする(後退角を小さくする)設計に務めており、高速性能や加速性能には劣るものの、遷音速域での運動性に優れる事で知られる、


超音速での飛行性能と亜音速での巡航性能の両立が求められる場合には、F-14やトーネード、F-111やB-1, Tu-22M などのように、可変翼を採用し巡航時の翼幅荷重を下げるといった手法がとられることもあった。ただしこれらの機体に続けて可変翼を採用しようという動きは2000年代現在見られない。



脚注





  1. ^ 東昭 『新講座 航空を科学する』 酣燈社、1995年、上巻51頁、下巻47頁。


  2. ^ 牧野光雄 『航空力学の基礎』 産業図書、1989年、第2版、228-229頁。ISBN 4-7828-4070-5。


  3. ^ Raymer, Daniel P. (1999). Aircraft Design: A Conceptual Approach (3rd Edition ed.). Reston: American Institute of Aeronautics and Astronautics. pp. pp. 360-361. ISBN 1-56347-281-3. 


  4. ^ Anderson, John D. (2005). Introduction to Flight (5th International Edition ed.). New York: McGraw-Hill. pp. p. 318. ISBN 007-123818-2. 




関連項目


  • 飛翔



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