ヒルベルト・サミュエル関数
可換環論において可換ネーター局所環 A 上有限生成な 0 でない加群 M と A の準素イデアル I のヒルベルト・サミュエル関数 (Hilbert–Samuel function) は、David Hilbert と Pierre Samuel にちなんで名づけられているが[1]、写像 χMI:N→N{displaystyle chi _{M}^{I}colon mathbb {N} rightarrow mathbb {N} } であってすべての n∈N{displaystyle nin mathbb {N} } に対して
- χMI(n)=ℓ(M/InM){displaystyle chi _{M}^{I}(n)=ell (M/I^{n}M)}
であるようなものである、ただし ℓ{displaystyle ell } は A 上の長さを表す。それは伴う次数加群 grI(M){displaystyle operatorname {gr} _{I}(M)} のヒルベルト関数と恒等式
- χMI(n)=∑i=0nH(grI(M),i),{displaystyle chi _{M}^{I}(n)=sum _{i=0}^{n}H(operatorname {gr} _{I}(M),i),}
によって関連付けられる。十分大きい n{displaystyle n} に対して、それは次数が dim(grI(M)){displaystyle dim(operatorname {gr} _{I}(M))} に等しい多項式関数と一致する[2]。
目次
1 例
2 次数の制限
3 関連項目
4 参考文献
例
二変数の形式的冪級数の環 k[[x,y]]{displaystyle k[[x,y]]} を自身の上の加群と考え順序によって次数付け、イデアルを単項式 x2 と y3 によって生成されたものとすると、
χ(1)=1,χ(2)=3,χ(3)=5,χ(4)=6 and χ(k)=6 for k>4.{displaystyle chi (1)=1,quad chi (2)=3,quad chi (3)=5,quad chi (4)=6{text{ and }}chi (k)=6{text{ for }}k>4.}[2]
次数の制限
ヒルベルト関数とは違って、ヒルベルト・サミュエル関数は完全列に対して加法的でない。しかしながら、アルティン・リースの補題の結果として、それはなお加法的であることにある程度近い。PI,M{displaystyle P_{I,M}} でヒルベルト・サミュエル多項式を表記する。すなわち、それは十分大きい整数に対してヒルベルト・サミュエル関数と一致する。
(R,m){displaystyle (R,m)} をネーター局所環とし、I を m-準素イデアルとする。
- 0→M′→M→M″→0{displaystyle 0to M'to Mto M''to 0}
が有限生成 R-加群の完全列で、M/IM{displaystyle M/IM} の長さが有限であれば[3][4]、
- PI,M=PI,M′+PI,M″−F{displaystyle P_{I,M}=P_{I,M'}+P_{I,M''}-F}
ただし F は次数が PI,M′{displaystyle P_{I,M'}} の次数よりも真に小さい多項式で、正の leading coefficient をもつ。とくに、M′≃M{displaystyle M'simeq M} であれば、 PI,M″{displaystyle P_{I,M''}} の次数は PI,M=PI,M′{displaystyle P_{I,M}=P_{I,M'}} の次数よりも真に小さい。
証明: 与えられた完全列を R/In{displaystyle R/I^{n}} でテンソルして核を計算すると、完全列
- 0→(InM∩M′)/InM′→M′/InM′→M/InM→M″/InM″→0{displaystyle 0to (I^{n}Mcap M')/I^{n}M'to M'/I^{n}M'to M/I^{n}Mto M''/I^{n}M''to 0}
を得、これから
χMI(n−1)=χM′I(n−1)+χM″I(n−1)−ℓ((InM∩M′)/InM′){displaystyle chi _{M}^{I}(n-1)=chi _{M'}^{I}(n-1)+chi _{M''}^{I}(n-1)-ell ((I^{n}Mcap M')/I^{n}M')}.
右辺第三項はアルティン・リースによって評価できる。実際、補題によって、大きい n とある k に対して、
- InM∩M′=In−k((IkM)∩M′)⊂In−kM′.{displaystyle I^{n}Mcap M'=I^{n-k}((I^{k}M)cap M')subset I^{n-k}M'.}
したがって、
ℓ((InM∩M′)/InM′)≤χM′I(n−1)−χM′I(n−k−1){displaystyle ell ((I^{n}Mcap M')/I^{n}M')leq chi _{M'}^{I}(n-1)-chi _{M'}^{I}(n-k-1)}.
これは望んだ次数の制限を与える。
関連項目
- en:j-multiplicity
参考文献
^ H. Hironaka, Resolution of Singularities of an Algebraic Variety Over a Field of Characteristic Zero: I. Ann. of Math. 2nd Ser., Vol. 79, No. 1. (Jan., 1964), pp. 109-203.
- ^ abAtiyah, M. F. and MacDonald, I. G. Introduction to Commutative Algebra. Reading, MA: Addison–Wesley, 1969.
^ これは M′/IM′{displaystyle M'/IM'} と M″/IM″{displaystyle M''/IM''} もまた有限の長さをもつことを意味する。
^ Eisenbud, David, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics, 150, Springer-Verlag, 1995, ISBN 0-387-94268-8. Lemma 12.3.