トリックスター
トリックスター (英: trickster) とは、神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を展開する者である。往々にしていたずら好きとして描かれる。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、異なる二面性を持つのが特徴である。
この語は、ポール・ラディンがインディアン民話の研究から命名した類型である。カール・グスタフ・ユングの『元型論』で取り上げられたことでも知られる。
シェークスピアの喜劇『夏の夜の夢』に登場する妖精パックなどが有名。ギリシア神話のオデュッセウスや北欧神話のロキもこの性格をもつ。
特徴
トリックスターは、時に悪意や瞋恚を持って行動したり、盗みやいたずらを行うが、最終的には良い結果になるというパターンが多い。抜け目ないキャラクターとして描かれることもあれば、乱暴者や愚か者として描かれる場合もあり、両方の性格を併せ持つ者もある。文化的に重要な役割を果たしているとき(例えば、火を盗むなど)や神聖な役割のときでさえ、おどけてみせたりもする。文化英雄であると同時に既存概念や社会規範の破壊者であり、あるいは賢者であるが悪しき要素を持つなど、一面的な定型に納まらない存在である。文化圏によってはコヨーテやワタリガラスと関連づけられる。
多くの文化では、トリックスターと文化英雄は結びつけられることが多い。例えば、ギリシア神話のプロメーテウスは、人間に火を与えるために神の元から火を盗んだが、彼はトリックスターとしてよりも文化英雄としての性格の方が有名である。一方、北アメリカネイティヴアメリカンの伝承では、コヨーテの精霊が神(もしくは星や太陽とも)から火を盗むが、こちらはトリックスターとしての性格の方が大きく現れている。これは、他の話においては、プロメーテウスは知性のある巨人だが、コヨーテは単なるいたずら者と見なされる場合が多いことから来ている。
トリックスターの例
- 日本
スサノオ(日本神話)- 吉四六
オキクルミ(アイヌ神話)
- 中国
孫悟空(仏教 - 西遊記)
紅孩児(同)
哪吒(道教 - 西遊記、封神演義)
ネイティヴアメリカン
イクトミ(北アメリカネイティヴアメリカンのスー族)
コヨーテ(北アメリカネイティヴアメリカン全般)
ワタリガラス(アラスカ及び、北アメリカとカナダ国境付近のネイティヴアメリカン全般)
ナナボーゾ(北アメリカネイティヴアメリカンのオジブワ族)
ココペリ(北アメリカネイティヴアメリカンのホピ族)
コシャレ(北アメリカネイティヴアメリカンのプエブロ諸族)
- アステカ神話
テスカトリポカ(アステカ神話)
ウェウェコヨトル(アステカ神話)
- ケルト神話
- スピリット(ケルト神話)
パック(ケルト民間伝承)
- ギリシア神話
エリス(ギリシア神話)
プロメーテウス(ギリシア神話)
ヘルメース(ギリシア神話)
ヘーパイストス(ギリシア神話)
- ユダヤ、キリスト教等
ルシファー(ユダヤ、キリスト教等)
ヤコブ(ユダヤ教、キリスト教)
- その他の神話・伝承
イシュタル(古代メソポタミア神話)
ソスリコ(北西カフカス神話)
アナンシ(西アフリカ、東インド諸島)
エシュ(ナイジェリアのヨルバ族神話)
サシ・ペレレ(ブラジル民間伝承)
ロキ(北欧神話)
ルナール(フランス民話)
ティル・オイレンシュピーゲル(ドイツ民話)
マウイ (ポリネシア神話)(ポリネシア神話)、マウイ (ハワイ神話)(ハワイ神話)
- フィクション
愚者(タロットカード)
ナイアーラトテップ(クトゥルフ神話)
関連項目
- 狂言回し
- コミックリリーフ
- トラブルメーカー
- 英雄譚
物語の類型 - 物語論