駐退機
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駐退機(ちゅうたいき)は、大砲を発射した際に生じる反動(recoil)を砲身のみを後座させることによって軽減するための装置である。通常、後座した砲身を元の位置に戻す復座機と一体化して駐退復座機として用いられる。
目次
1 概要
2 歴史
3 自動火器
4 構造
4.1 駐退機
4.2 復座機
4.3 機関銃[要出典]
5 後座長
6 外部リンク
概要
大砲を発射した際には、砲弾の発射という「作用」に対しての砲身の後退という「反作用」が生じる。反作用を支えねばならない側にとっては、反作用の力が短時間にすべて伝えられればそれは激烈に感じられるが、駐退機を利用して反作用が伝わる時間を長く引き延ばせれば支えることが容易になる。火砲は発射プラットフォームとして多様な移動体に載せられることが多く、また照準器などは本質的に衝撃に弱いので、発射時の衝撃が減ればそういった周辺の機械装置類への悪影響も緩和される。砲架も含めた支持基盤の軽量化が期待できる。
もうひとつ重要なのは、発射の際に大砲が後退することによって、再度の照準調整、大砲が後退する場所の確保といった問題が生じる。駐退機を利用すれば砲身のみが後退し、また元に戻るので、照準調整のやり直しは不要となる。また大砲の設置の際に、後退する場合を考慮する必要が無くなる。
歴史
駐退機が発明される以前の大砲は、発射する度に砲架も含めて砲全体が反動で大きく後退してしまう為、その度に元の位置に戻して再度照準を合わせてから射撃を行う必要があった。結果として、射撃精度は低く、射撃速度も遅かった。また帆船時代での艦載砲では、発砲する度に狭い船内を砲が後退するのをロープで繋ぎ止めてはいたが依然として危険であった。初期の戦艦においては、大砲を傾斜したレールの上に乗せる事で、後退した大砲がまた元の位置に戻るように設計した場合もあった。
この対策として1840年代あたりからバネ式の装置を用いて、砲身のみをある程度の距離を後退させながら反動を押さえる駐退機が開発されるようになった。中でも1897年にフランスが制式採用したM1897 75mm野砲は世界で初めて液気圧式駐退復座機を搭載し、現代の火砲ではこれが最も一般的な形式である。この結果、大砲の射撃速度が劇的に上昇し、速射砲と呼ばれる火砲が登場することになる。
自動火器
自動火器では射撃の際、実包の発生するエネルギーをもとに遊底などの部品が動くことになる。この際、自動式でない火器と比べて射手や固定脚への反動の伝達が遅延される。この点は駐退機と似ている。
構造
駐退機
砲身は揺架と呼ばれるレールに設置されており、砲身と揺架は駐退復座機を介して繋がっている。駐退復座機の内の駐退機は、作動油で満たされた1本か2本のシリンダーとそれぞれに対応するピストンとロッドで構成されている。発砲時に砲身が後座しようという力はロッドを介してピストンを引こうとする。ピストンによって圧縮圧を受けた作動油はシリンダーに開けられた漏孔と呼ばれる細い穴を通じてのみ排出されるため、ピストンとロッドは緩やかな動きで砲身の後退を許すことになる。
復座機
駐退復座機の内の復座機は、1本か2本のシリンダーであり駐退機と似た外見をしている。復座機側のシリンダーは単純な筒状の圧力タンクであり、駐退機の漏孔から流入する作動油を貯えておく働きをする。復座機のシリンダー内には不活性ガスが充填されており、砲身の後座に伴って作動油が流入すればガスが圧縮されて高温高圧になる。後座位置が最後部近くになるとこのガスの高い圧力がそれ以上砲身を下げないように作動油とロッドを介して働くため、砲身が駐退し切ったときには砲身の後方への慣性力を相殺したうえでなお、前方へ押し戻す作用を始める。圧縮されていたガスは、ゆっくりと作動油を駐退機のシリンダーへと押し戻し、それによって砲身がゆっくりと復座する。発射時に砲身が生み出した後方への大きな力は、揺架を通じて砲耳や砲架へと幾分緩やかに伝えられるとともに、作動油が漏孔を通るときの摩擦熱や圧縮ガスの発熱などに変換されて消費されることになる。砲の復座機の主流は気圧式である。
駐退用の緩和材料に、上述の通り初期にはバネを用いたがM1897 75mm野砲において液体が用いられた。液体にはグリセリン、オレオナフタなどが用いられる。
機関銃[要出典]
駐退復座機に相当する機構は機関銃でも大型のものでは用いられているが、大砲のように発射時の反動がより大きな火砲でより一般的である。上記の記述は大砲を中心に行ったが、砲身や砲弾は銃身や銃弾と読み換え、ガス圧縮はバネと読みかえることで機関銃用での同様の機構の説明にほぼ相当する。
後座長
砲身が駐退に伴って揺架上を押し出されることを後座と呼び、押し出される長さが後座長である。一般に後座長が長ければ長いほど、単位時間当たりの後座抗力も小さくなり衝撃も緩和される。反面で後座長が長いと、大射角での射撃時に砲尾が地面に接触してしまうため、地面を開削するか、大射角時の後座長を制限するための変換装置を設ける必要がある。例としては三八式野砲の後座長は1.2mであった。
外部リンク
駐退機・復座機 「大砲と装甲の研究」(Ichinohe Takao)[リンク切れ] (Internet Archive)