フェルラ酸
フェルラ酸 | |
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IUPAC名 (E)-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシ-フェニル)プロパン-2-エノール酸 | |
別称 2-プロペノン酸 | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 537-98-4 |
日化辞番号 | J7.273G |
KEGG | C01494 |
SMILES
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特性 | |
化学式 | C10H10O4 |
モル質量 | 194.184 g/mol |
融点 | 168 - 172 ℃ |
関連する物質 | |
関連する異性体 | イソフェルラ酸 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
フェルラ酸(フェルラさん、ferulic acid)はフィトケミカルとして植物の細胞壁などに存在する有機化合物。ケイ皮酸の誘導体で、リグニンを構成する。また、他の芳香族化合物の合成の前駆体となる。
地中海沿岸に自生するセリ科の植物オオウイキョウ(Ferula communis)から発見・命名された。
目次
1 天然での存在
2 生体防御への利用
3 応用
3.1 認知症予防
3.2 バニリンの前駆体
3.3 質量分析
3.4 味覚装飾
4 関連項目
5 外部リンク
6 参考文献
天然での存在
フェルラ酸とジヒドロフェルラ酸は、細胞壁のリグノセルロース中でリグニンと多糖を繋ぎ合わせる役割を担っている[1]。米、小麦、ライ麦、大麦やコーヒー、リンゴ、アーティチョーク、ピーナッツ、オレンジ、パイナップルなどの種子の中にも見られる。濃アルカリを用いて小麦や大豆のふすまから抽出される。カフェ酸にO-メチルトランスフェラーゼ(caffeic acid 3-O-methyltransferase; COMT, EC 2.1.1.68, 反応)が作用することにより、生合成される[2]。
生体防御への利用
フェルラ酸は、他のフェノール類のように抗酸化作用を持ち、活性酸素種などのラジカルと反応する。活性酸素種とラジカルはDNAの損傷や癌の原因となり、細胞の老化を促す。動物実験やin vitroでの実験では、フェルラ酸は乳癌[3]や肝臓癌[4]に対して抗腫瘍活性を示した。また癌細胞にアポトーシスを起こさせる働きを持つことも指摘されている。さらにベンゾピレンなどによる発癌を予防する効果も持つ[5]。ただし、これらは人間によるランダム化比較試験に基づくものではなく、これらの結果が人間にも直接当てはまるとは限らない[6]。
アスコルビン酸、ビタミンEと共存すると酸化ストレスを減らし、チアミン二量体を形成して皮膚を守る。
応用
認知症予防
米ぬかなどから精製された天然のフェルラ酸がアルツハイマー型認知症に有効であることを臨床試験で示した論文は、インターネットのgoogle上で、フェルラ酸、認知症、アルツハイマー病、Ferulic acid、dementia、Alzheimer’s diseaseの何れの検索においても見当たらない。中村重信・広島大名誉教授らによるアルツハイマー病通院患者143人とその家族の協力を得て、9か月間に亘って投与した試験対象物はフェルラ酸の単一成分ではなく、フェルラ酸とガーデンアンゼリカ抽出物の配合製剤ANM176(ANM176は㈱エイワイシーの登録商標)で、原著の題名は「Ferulic acidとgarden angelica根抽出物製剤ANM176(™)がアルツハイマー病患者の認知機能に及ぼす影響」となっている。Ferulic acidはフェルラ酸、garden angelicaはガーデンアンゼリカ(Angelica archangelica、セイヨウトウキ)のこと。この試験では、試験前と試験開始から3か月毎に、認知機能検査を行った。その結果、アルツハイマー病患者の認知機能は通常、時間の経過とともに低下し続けるのに、ANM176を使った場合は、軽度の患者は試験終了時まで改善が続き、中度の患者も6か月後まで改善状態が続いた。フェルラ酸がANM176と同じ効果があるか否かはこの試験では示されていない。
バニリンの前駆体
天然に多く存在するフェルラ酸はバニリンの工業合成の原料となる[7]。しかし、現在ではバイオテクノロジーを用いたバニリンの製造がより効率的に行われている[8]。
質量分析
MALDI法による質量分析でタンパク質のマトリックスとして利用されている[9]。
味覚装飾
クラフトフーヅは、アセスルファムカリウムの苦みをマスキングするためフェルラ酸ナトリウムを用いる方法の特許を取得している[10]。
関連項目
- γ-オリザノール
カフェ酸 (コーヒー酸)- クマル酸
- MALDI法
竜胆瀉肝湯-有効成分として含有
外部リンク
- 「フェルラ酸について」
参考文献
^ Iiyama, K.; Lam, T B.-L.; Stone, B. A. "Covalent Cross-Links in the Cell Wall" Plant Physiology, 1994 volume 104, pp. 315-320.
^ Shahadi, Fereidoon; Naczk, Marian. Phenolics in food and nutraceuticals. Florida, USA: CRC Press LLC. pp. pp. 4. ISBN 1-58716-138-9.
^ Antiproliferative and apoptotic effects of selective phenolic acids on T47D human breast cancer cells: potential mechanisms of action. Breast Cancer Res. 2004; 6(2: R63-74. Epub 2003 Dec 15
^ Role of NADPH oxidase-mediated generation of reactive oxygen species in the mechanism of apoptosis induced by phenolic acids in HepG2 human hepatoma cells. Arch Pharm Res. 2005 Oct; 28(10): 1183-9
^ Protective effects of ellagic acid and other plant phenols on benzo[a]pyrene-induced neoplasia in mice. Carcinogenesis. 1983 Dec; 4(12): 1651-3
^ Ferulic acid stabilizes a solution of vitamins C and E and doubles its photoprotection of skin. J Invest Dermatol. 2005 Oct; 125(4): 826-32
^ Ferulic acid: an antioxidant found naturally in plant cell walls and feruloyl esterases involved in its release and their applications. Crit Rev Biotechnol. 2004; 24(2-3): 59-83
^ Biotechnological production of vanillin. Appl Microbiol Biotechnol. 2001 Aug; 56(3-4): 296-314
^ Beavis, R. C.; Chait, B. T., Cinnamic Acid Derivatives as Matrices for Ultraviolet Laser Desorption Mass Spectrometry of Proteins. Rapid Commun. Mass Spectrom. 1989, 3, 432-435; doi:10.1002/rcm.1290031207
^ United States Patent 5,336,513 Archived 2017年4月30日, at the Wayback Machine.